孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マレーシア  選挙制度改革と公正な選挙を求める大規模な抗議デモを厳しく鎮圧

2011-07-10 20:23:30 | 国際情勢

(7月9日 クアラルンプール 大規模な反政府デモが行われ、1700名程度の拘束者が出ています。“flickr”より By Viraj 180°  http://www.flickr.com/photos/virajphoto/5918392716/ )

国王「デモは国家分裂につながりかねない」】
最近あまり報道がなかったマレーシアから、大規模な反政府デモで多数の拘束者が出たことが報じられています。

****マレーシア1700人拘束 選挙制度改革求めデモ****
マレーシア国営ベルナマ通信などによると、首都クアラルンプールで9日、選挙制度改革と公正な選挙を求める大規模な抗議デモがあり、約1700人が警察当局に拘束された。
デモは、早ければ年内とされる次期総選挙をにらんだもので、野党が後押しし、複数の非政府組織(NGO)で構成する「ブルシ(マレー語で清潔)2・0」が組織した。

元高等裁判所判事のインド系女性が代表のブルシは、ナジブ政権に(1)不在者投票制度の対象を拡大する(2)選挙期間を21日以上とし、有権者が候補者などを適切に判断できるようにする(3)国営メディアは野党の主張を公平に扱う-など、8項目を要求している。

政府はブルシとデモを違法とし、警察当局は催涙ガスを発射し放水して、デモの鎮圧を図った。ナジブ首相は、デモ参加者は少数派であり、マレーシア人の大多数はナジブ政権を支持しているとの見解を示した。
デモを前に、ミザン・ザイナル・アビディン国王は3日、デモは国家分裂につながりかねない、と遺憾の意を表明。デモを呼びかけたとしてすでに、野党議員らが逮捕されていた。【7月10日 産経】
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今回のデモ参加者は07年に行われた反政府デモと同様に1万人を超えた模様です。なお、警察は5000~6000人としており、デモ主催者側は5万人を集めたと主張しています。
野党第1党の人民正義党を率いるアンワル元副首相はデモ参加中、足にけがをしたそうですが、身柄は拘束されていないようです。
早ければ年内にも行われるとされている次期総選挙を前に、今回こうした強硬措置を講じたナジブ政権への批判が強まることを指摘する向きもあります。

マレー系、中国系、インド系住民が、マレー系や少数民族の優遇策“ブミプトラ政策”のもとで微妙なバランスをとる多民族国家マレーシアですが、今回のようなデモが違法とされて鎮圧され、“国家分裂につながりかねない”と意識されるあたりに、この国をまとめている政治体制の強権的側面も窺えます。

揺らぐ支配体制
マレーシアでは、経済成長を牽引する一方で、強権的支配で“開発独裁”とも言われたマハティール元首相が統一マレー国民組織(UMNO)を率いて長く安定した権力を維持していましたが、57年の独立以来政権を握り続けているUMNOの腐敗や利権体質を批判する国民の声も大きくなってきました。

03年にマハティール元首相の後を継いだアブドラ前首相は、そうした腐敗・利権体質の一掃を掲げましたが実現できませんでした。
マレー系住民の優遇政策“ブミプトラ政策”も、政権に近い人たちの既得権益として利用された面もあり、非マレー系住民だけでなく、マレー系中間層の反発も招くようになりました。

こうした国民不満が噴き出す形で、08年総選挙では与党UMNOが大敗、アンワル・イブラヒム元副首相を中心とする野党勢力が大きく議席を増やしました。
アンワル元副首相は、かつてはマハティール首相(当時)の後継者と目された人物ですが、アジア通貨危機時に首相と対立。98年に同性愛行為と職権乱用で訴追され、6年間投獄された経緯があります。同性愛行為については、その後逆転無罪となり釈放され、08年の下院補選で圧勝、政界に返り咲いています。

危機感を強めた与党側は、09年3月、アブドラ前首相からナジブ氏に党総裁交替、4月にはナジブ氏が新首相に就任して体制立て直しを図りました。
ナジブ首相は、第2代首相ラザク氏の長男で、第3代首相フセイン氏のおいにあたり、白血病で急死した父に代わり、76年に史上最年少の22歳で下院議員に当選。その後国防、財務相など主要ポストを歴任するなど“政界のプリンス”と呼ばれる政治家です。
性格的には、マハティール元首相や野党指導者アンワル氏のような強烈な個性はなく、「怒り方を知らない」と言われるほど温厚とか。【09年4月3日 毎日より】

そうした温厚な人柄に加え、これまで優遇されていたマレー人の特権を一部縮小する新政策が国民の支持を受ける形で、ナジブ政権は安定を取り戻し、アンワル元副首相を中心とする野党側の攻勢も決め手を欠く状態が続いています。

しかし、マハティール元首相のもとで確立された強権支配的体質への批判がなくなった訳ではなく、09年8月には、「国内治安維持法(ISA)」の撤廃を求める野党支持者のデモ隊と治安当局の衝突が報じられていました。

****マレーシアで治安維持法撤廃求めるデモ、600人逮捕****
マレーシアの首都クアラルンプールで1日、裁判なしで無期限に身柄を拘束できる「国内治安維持法(ISA)」の撤廃を求める野党支持者のデモ隊と治安当局が衝突。警官隊が放水車や催涙ガスでデモ鎮圧を図り、約600人が逮捕された。
デモは野党指導者のアンワル元副首相が主導し、最大で1万人が参加。首都で行われたデモとしては、過去2年間で最大の規模となった。
アンワル元副首相は、デモ隊を前に演説し「われわれはきょう、残酷な政権の下の残酷な法律と闘うため、ここに集まった」と述べた。「国内治安維持法」は過去に野党の弾圧目的に利用されたとされている。
クアラルンプールの警察長官は、589人が逮捕された、と述べた。
一方、政権側は強硬な姿勢を崩しておらず、閣僚の1人は、現政権が続く限り、国内治安維持法の撤回はあり得ないとの認識を示した。【9年8月3日 ロイター】
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【「人種を優遇するのではなく、困っている人を助けることが大切だ」】
今年4月に来日したアンワル氏は、次期総選挙で「政府・与党連合の不正や妨害さえなければ政権交代が実現する」との強気の見方を示しています。

*****マレーシア政権交代 「妨害なければ実現*****
来日中のマレーシアの野党指導者アンワル・イブラヒム元副首相(63)が20日、朝日新聞記者と会見し、近く予想される総選挙について「6月か7月と考え準備している。政府・与党連合の不正や妨害さえなければ政権交代が実現する」との見通しを示した。

野党陣営は2008年3月の総選挙で大躍進し、57年の独立以来続く与党連合の支配を揺るがした。次回総選挙は初の政権交代が実現するかどうか、注目されている。(中略)

公約についてアンワル氏は「ガバナンス(統治のあり方)を変える。政権の腐敗体質を一掃し、これまで存在しなかった法の支配と公正な選挙、報道の自由を保障する」と話した。
マレー系住民を優遇する「ブミプトラ政策」は廃止の方針という。「人種を優遇するのではなく、困っている人を助けることが大切だ。特にインド系の多くが困難のなかにいる」

先月、アンワル氏が女性と密会する場面という映像がインターネット上で公開された。かつて異常性行為で起訴されたのに続くスキャンダルの流布が波紋を広げ、指導者としての資質を問う声が野党連合内の不協和音につながっている。アンワル氏は、ビデオに映っているのは自分ではないと細かく反論し、「野党を束ね、聴衆を集めることができるのは自分だけだ」と危機を乗り切る自信を見せた。【4月22日 朝日】
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