孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

辞めないタイ・サマック首相 非常事態宣言、 辞める福田首相・・・

2008-09-02 15:44:26 | 世相

(PADが占拠するバンコクの首相府で警備にあたる警官隊 女性からのドーナツ差し入れに和むひととき 8月28日の様子ですが、非常事態宣言が出た今は、また違った雰囲気になっているのではないでしょうか。“flickr”より By craig.martell
http://www.flickr.com/photos/craig_martell/2806512985/)

【国民の支持が広がらないPAD】
タイ・バンコクでくりひろげられている反政府団体・民主主義市民連合(PAD)とサマック首相の対立について、“どうもPADというのは“胡散臭い”ところがあるな・・・、ここはサマック首相の踏ん張りどころかな・・・”なんてことを書こうかと考えていたのですが、なんのことはない、自分の国の首相が踏ん張ることなくさっさと再び退陣を表明しました。

PADは“タクシン元首相の傀儡”としてサマック首相の辞任を求め、首相府での座り込みを始めて9月1日で1週間を迎えました。
この間、首相府占拠に加え、プーケット、クラビ、スラタニなど南部空港の実力閉鎖といった過激な行動で政権に揺さぶりを掛けましたが、首相は辞任を拒否。
社会を混乱させる議会外の直接行動に国民は距離を置いているとも言われ、市民連合の活動は手詰まり状態となっています。占拠している首相府では、有名歌手の歌謡ショーを開き、食事を無料提供するなど参加者集めに躍起になっているとも。

ただ、国鉄労組が支援ストに入り長距離列車を中心に3分の1から半数がストップしているほか、政府系企業でつくる労組連合は1日、加盟43労組が3日から事実上のストに入ると宣言、電力、水道、電話、金融機関など国民生活に大きな影響が出るおそれが懸念されていました。

【手詰まりのサマック首相】
一方のサマック首相は「脅しによって私をやめさせることはできない」「私には国家を平和的に前進させる責任がある」と退陣を拒否しており、タイで大きな影響力を持つプミポン国王に面会するなどして事態打開をはかってきました。
国王への謁見については、“中部のフアヒンの王宮でプミポン国王と謁見したが、空路でバンコクに戻った直後、予定の記者会見に出席せず消息が不明になっており、政権内部からも辞任を求める声が出る中、窮地に追い込まれた。
”とか、“29日深夜、中部ホアヒンに滞在中のプミポン国王を訪ね、未明まで粘ったが、面会できなかったという。30日午後、再度面会を申し入れ、受け入れられた。”とも報じられています。
92年の民主化運動に伴う流血の事態に際し、プミポン国王が見せた影響力の大きさ、サマック首相もPADリーダーのチャムロン氏も当時の関係者であることなどは、8月29日のブログでも取り上げたところです。

強制的に占拠者を排除すれば流血の事態となり、国民の批判を招きPAD側の思う壺にはまってしまうこと、軍も前回のクーデターに懲り、敢えて火中の栗を拾うことを嫌がっているため、非常事態宣言を出そうにも軍の協力が得にくいこと(29日には、「協力関係にある軍側から首相辞任を打診されたようだ」という首相側近の話も流れています。)、議会内では野党民主党だけでなく、与党内でも首相辞任を示唆する発言が出て、辞任勧告や議会解散が噂されるような事態にもなっていたこと・・・こうした状況でサマック首相も手詰まり状態にありました。

こうした事態に軍幹部も30日未明にかけて会議を持ち、状況打開の道として、首相辞任、下院解散のほか、野党・民主党を含めた大連立政権樹立、クーデターの可能性などが話し合われたとも報じられていますが、“クーデター”がそんなにおおっぴらに話し合われるあたりがタイらしいところです。

【非常事態宣言】
そんなPAD側もサマック首相も手詰まりの膠着状態が続いていましたが、ついに2日未明、PADと政府支持派の群衆数千人がバンコク中心部で発砲を伴って激しくぶつかり合い、死者1名を含む多数の死傷者が出ました。
これを受けて、サマック首相は午前7時(日本時間同9時)、首都に非常事態を宣言しました。
 
非常事態宣言下では、アヌポン陸軍司令官に事態収拾の指揮権が委任され、5人以上の集会が禁止されますが、PADは首相府の占拠を解かない構えで、更に南部の空港を再度閉鎖に追い込む意向を示すなど強硬な姿勢を崩しておらず、軍が強制排除に乗り出せばさらに大きな流血につながる恐れもあります。

【議席7割は任命制?】
PADに関しては、憲法改正反対とかサマック首相の退陣要求以外の具体的な主張が、日本では殆ど報じられていませんでしたが、“(議会の)全議席の約3割のみを選挙で選出し、残りの議席は任命制とするよう議会制度の改正を求めている。 PADの主な支持層は、従来からの富裕層や少数の中流階級層など。PADの指導者らは、タクシン元首相やサマック首相らを支持した農村地域の貧困層が投じた票の価値に疑問を呈していた。”【9月1日 AFP】という記事がありました。

また、PAD指導者であるメディアグループ経営者、ソンティ氏はタクシン前首相の盟友でしたが、資金トラブルから決別した関係にあり、かねてより、タクシン政権時代に利権を失った企業家らがPADの活動資金を提供しているとも言われています。

こうした一部情報だけで判断することは危険ではありますが、どうもPADには“胡散臭い”ところがあります。
もし本当に議会の7割を任命制にすることを主張しているのであれば“民主主義市民連合”の名前と大きく異なるグループのようにも思えます。“農村貧困層が投じた票の価値に疑問”云々は問題外です。

また、選挙からまだ間もないこの時期に首相府や空港を占拠して辞任をせまる、流血の混乱から軍のクーデターを誘発することも視野に入れての行動・・・というのも、議会を重視した民主主義のあり方からは外れています。
権力側が選挙結果や議会を無視しており他に方法がないなら別ですが、今のタイの政治状況で、自分達の気に入らない選挙間もない政権を議会によらず潰そうというのは・・・いかがなものでしょうか。

そんなこともあって、冒頭に述べたように“サマック首相は今が踏ん張りどころか・・・”と思ったのですが、事態は非常事態宣言発令で緊迫しています。

【淡々と辞意表明の福田首相】
それにしても、サマック首相が「辞める理由がない」と辞任を拒否しているように、海外からのニュースで伝えられる権力者、政治家の動向は、“何としても政権を維持する”というものが目立ちます。
選挙結果を認めず強権的にいすわるジンバブエ・ムガベ大統領、憲法改正によって再選を可能にしたいベネズエラ・チャベス大統領、武力に訴えても自己の主張を押し通そうとするグルジア・サーカシビリ大統領とロシア・メドベージェフ大統領、連立を解消しても1年がかりで原子力政策を進めるインド・シン首相、死に体と言われながらも粘りに粘ったパキスタン・ムシャラフ大統領・・・
良く言えば“自分がやらずして他に誰がやるんだ”という気概・自負心に溢れていると、悪く言えば“権力に執着している”言えるかも。

別にこれらの指導者が“優れている”なんて言う気はないですが、毎日こうした人の記事に接していると、殆ど衰弱状態に追い込まれた安倍前首相はともかく、今回の福田首相の辞任劇はいかにも淡白に思えて際立ちます。
自分からとりに行った政権でもなく、周りから請われる状況で“貧乏くじかもしれないよ”なんて引き受けた政権ですから。

“頑張りズム”信仰の強い日本ではこうした福田首相の対応はいかにも不評で、世間は“無責任な投げ捨て”と批判一色ですが、個人的には私自身これまで節目節目で多くのものを投げ捨ててきましたので、“無責任”云々を問う資格はないと自覚しています。
ただ、政治家、政治をめぐる状況が変わってきたな・・・という感はしています。

【内閣支持率や世論】
昔の“三角大福”時代の政治家は、怨念まみれのドロドロした世界で、隙あらば相手に食らいつこうと互いにうかがっていました。
三木首相などは、自民党内の公然たる“三木おろし”にもかかわらず、政権維持に固執しました。
竹下首相はリクルート問題で連日マスコミの袋叩きにあい、支持率5%台なんて数字になるまでやっていました。
(どうしてあんなつらい状況を投げ出さないのか、不思議に思いつつTVを観ていました)

今はみな周囲の評価を非常に気にします。
評価の象徴が“支持率”で、福田首相も随分気にしていたようです。
政権側がここまで支持率を気にするようになったのは安倍政権以降だとも言われています。
選挙で自らが信任された訳でもなく、小泉改革でかつての支持基盤は壊れてしまい、いまや“創価学会が自民党の最大の支持団体”という状況にあっては、“世論”の動向に頼るしかないのでしょう。

世論に気を配るというのは民主主義の基本でもあり、当然のことでもあります。
ただ、世論というのはうつろいやすいもので、ときに感情的で無分別です。
そこに取り入ろうと、“新聞の論説委員だけではなく、みのもんたに支持されるようにしないと”ということにもなります。

しかし、大衆迎合を排すべく・・・なんて言っていると、タイPADのような“議会の7割を任命制にする”云々にもなってきますので、これまた注意が肝要です。

コメント
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