
(ソマリアの青い海と廃墟 “flickr”より By ctsnow
http://www.flickr.com/photos/ctsnow/851252619/ )
東アフリカ“アフリカの角”に位置するソマリア。
ソマリア沖では、海賊によって船舶が乗っ取られるニュース(昨年10月日本国籍タンカー、北朝鮮貨物船(工作船?)、今年4月フランス豪華帆船、スペインマグロ漁船)がしばしば報じられています。
06年末に隣国エチオピア軍がイスラム原理主義勢力「イスラム法廷連合」を首都モガディシオから追放し、一応暫定政府(ユスフ大統領)が成立はしましたが、「イスラム法廷連合」残党との戦闘、エチオピアへの抵抗運動が収まらず、事態は悪化の方向にあるようです。
【ソマリア情勢悪化の経緯】
事態悪化が顕著になったのは、昨年10月末に激化したエチオピア軍に対する抗議デモ、これに対するエチオピア軍発砲のニュースあたりからです。
10月29日には暫定政府のゲディ首相が辞任。
ケディ首相の出身氏族は反エチオピアの姿勢を強めており、エチオピアとの間に一定の距離を保とうとした首相は、エチオピアとの連携強化を図るユスフ大統領や議会と対立していたと言われています。
激しさを増すエチオピア軍への抗議活動により、10月末時点で最大9万人の避難民が発生。
人道支援団体などは、支援活動が不可能になりつつあるとしてソマリアの危機を訴える声明を発表しました。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は声明で「過去数か月で最悪の事態」と述べています。
無政府状態が長年続いたソマリアでは、すでに国民の6分の1にあたる150万人が人道支援を必要としており、これに上乗せするかたちでの難民です。
【国連もPKO断念】
戦況の泥沼化に対し、潘基文・国連事務総長は11月8日、暫定政府から要請されていた国連平和維持活動(PKO)部隊の派遣について「現実的でない」と国連安保理に報告し、派遣を事実上断念しました。
PKO部隊の派遣を見送る代わりに、アフリカ連合(AU)独自の平和維持部隊を支援する考えを表明した。
しかし、AUは07年1月、ソマリアへ8000人規模の部隊派遣を決定しまたが、治安の悪化で当時ウガンダ軍1600人の派遣にとどまっていました。
このため、事務総長の提案には「国連にできない派遣が、なぜAUにできるのか」(外交筋)との疑問も出ていました。【07年11月11日 毎日】
【ソマリア情勢の三つの側面】
ソマリアの混乱は、国内的には暫定政府と「イスラム法廷連合」の争いですが、暫定政権を支援するエチオピアと同国と対立し反政府勢力を支援するエリトリアの代理戦争でもあります。
独自で治安を維持できない暫定政府はエチオピアに頼るしかなく、エチオピアが前面に出るほど国民のエチオピアへの反発が強まる悪循環に陥っています。
エチオピアは当初「(ソマリアからの)即時撤退」を表明していましたが、引くに引けない泥沼化に陥っています。
ソマリア反政府勢力はエチオピア東部オガデン地方の分離・独立を求める反政府勢力と繋がっており、エチオピアにとってソマリアでの「イスラム法廷連合」の勢力拡大はエチオピア国内での分離独立運動激化を意味するため、エチオピア国内安定のためにもソマリア混乱を座視できない事情があります。
エチオピア空軍は11月18日、オガデン地方の村や遊牧民居留地をじゅうたん爆撃し、多数の住民、家畜が殺害されたと反政府勢力は発表しています。
ソマリア内紛は「アメリカ対イスラム原理主義」の代理戦争にもなっています。
今年3月には、アメリカはソマリア南部に潜伏する国際テロ組織アルカイダのメンバーを狙って、ソマリア沖の潜水艦から巡航ミサイル・トマホークを3発発射しています。
一方、反政府勢力の側も「暫定政権憎し」の感情でつながっているだけであり、内部はバラバラなのが実情とか。
昨年9月にはエリトリアにおいて対抗勢力側の会議が開かれましたが、コンセンサスに達することができませんでした。【07年11月16日 IPS】
【ジブチで国連主導の和平会議】
今年4月19日、20日には戦闘が更に激化。2日間で少なくとも81人が死亡【ロイター】。
市街地には遺体が放置されている状態とか。
世界的食糧価格高騰を受けて、5月5日、価格高騰に抗議する約7000人のデモ隊が治安部隊と衝突。
治安部隊の発砲で市民5人が死亡するなど情勢は悪化。
エチオピア軍が、ソマリアの一般市民を「のどをかき切って」処刑する事例が増えているとの報告書を国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが5月6日発表。
エチオピア政府はこれらの事実関係を否定し、同団体に対し謝罪を求めています。
ジブチで国連主導の和平会議が始まっているようですが、最近、「イスラム法廷連合」指導者や、「イスラム法廷連合」を支援しているといわれるエリトリア指導者の発言の記事を目にします。
これら勢力が勢いを増していることの反映でしょう。
「イスラム法廷連合」の最高実力者ハッサン・ダヒル・アウェイス師は22日付の英紙ガーディアンに掲載されたインタビューで、「先週、ジブチで始まった国連主催の和平協議は、エチオピアがまず全部隊を撤退させなければ、失敗する運命にある」、「国連は公平ではない。われわれはこの和平プロセスを続行したいとは思わない。われわれの計画は、闘争を続けることである。すべての地域から敵を追い出すことが重要だ」と主張しています。
ジブチでの和平協議は、イスラム勢力が実際の協議開始に先立ってエチオピア部隊の撤退を主張していることから、これまでのところ、間接的な接触しか行われておらず、強硬派のイスラム勢力司令官や行動を共にしている氏族は、協議をボイコットしているそうです。【5月22日 時事】
エリトリアのイサイアス大統領は23日、イランと「強い協力体制を築くことになる」と述べており、アメリカに対抗するイランとの関係強化で、エリトリアがさらに反米色を強める可能性も指摘されています。
大統領はまた、エリトリアの「テロ支援」を非難しているアメリカに対し、「事実に反する」「アメリカが(勝手に)ソマリアの反政府勢力を『テロリスト』と分類しているだけだ」と強く反論。
ソマリア情勢については「安定のためにあらゆる分野での支援をいとわない」と語っています。【5月24日 毎日】
【統一政権は可能か?国際支援は?】
現在の暫定政権は、1991年にバレ政権が崩壊して以降14度目の全国政権確立の試みでしたが、厳しい状況にあります。
ネルソン国際公共問題研究所(米ジェームス・マディソン大学)のピーター・ファム所長は「むしろ、氏族を中心としたいくつかの単位にソマリアを分割して統治した方が地域の実情に合っており、治安も保ちやすいのではないか。まずはソマリアに対する武器禁輸措置をとるべきだと話す。」と主張しています。【07年11月16日 IPS】
国際支援のあり方も問題になります。
先述のように国連は対応をあきらめ、アフリカ連合(AU)に任せていますが、資金的に困難な状況にあるアフリカ諸国は派遣もままならず、本来8千人規模のはずが2200人しか到着していません。
「国連にできない派遣が、なぜAUにできるのか」という疑問は当然に思われます。