BE HAPPY!

大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

翡翠の空(4)

2007-07-21 14:57:48 | Angel ☆ knight
    
   「初めて、お絵かきソフトを使って描いてみました」
   「何、これ。ロールシャッハテスト?」
   「 何に見えますか~?」

 スークでは食べ終わったらすぐに狭い屋台の席を開け、そこここに設けられたベンチや休憩所に移るのがマナーである。
美影は789便のクルーだったらしい二人と同じ頃合いに食べ終わるよう調節し、彼らに続いて屋台から離れた。
二人がチャイのカップを手に噴水を囲むベンチに座ると、美影もそれに倣って彼らに近づいた。
「あの」
何を話せばいいのかわからなかったが、美影は思いきって声をかけた。789便の乗客だったというと、二人の怪訝そうな表情が少し緩んだ。
はたして、彼らはあの便のコックピットクルーで、男性の方が機長の雪尾飛鳥、女性は副操縦士の速水聖佳といった。
「わたしたち、てっきりオーロラの名所か何かだと思ってたんです。電気が消えたのもオーロラを楽しむためのサービスかと…でも、違ってたんですね」
「そうなんです。遭難です」
「え…?」
二人がこの日、それぞれ機長デビュー、コパイデビューだったと聞いて、美影は驚いた。
「そんな風には見えませんでした。とても見事に対処されていましたから」
「まあ、想定しうる全てのトラブルは予め訓練でシミュレーションしてますから、全くどうしていいかわからないということはないんですよ」
聖佳が答える。
「でも、今は黒点が増える時期じゃないのに、あんな大きなフレアに遭うなんていうのは、想定外だったんじゃないですか?」
わたしはまるでインタビュアーみたいな口のきき方をしている、と美影は思った。今度は飛鳥が答えた。
「フレア自体は想定外でしたが、成層圏でトラブった時はどうするかっていう手順は決まってるんで、それに従って」
答えながら、彼が思わずあくびをもらしたので、美影は慌てて詫びた。
「すみません。お疲れのところを、長々と」
そして、弁解するように、話すつもりのなかったことを口に出した。
「わたし、パイロットになりたいと思ってたんです。でも、自分の気持ちが本物かどうかわからなくなって…それで、今日、飛行機に乗ってみたんです」
航空関係者の中には、こういう話をされると、
―なんだよ、結局、就職相談か。
という顔をする者もいるが、飛鳥はそれまでと同じ淡々とした声と表情で言った。
「そういうことは、何遍お客さんで乗ってもわからないと思いますよ。本気でプロになるつもりで操縦桿を握ってみないと」
「そうですね」
と、美影も頷いた。

 非番の日、イファンは空港に足を運んで到着ロビーで美影を待った。
彼女からは旅行の日程も行き先も聞いていない。会える確率は低かったが、そうせずにはいられなかった。
3機が到着したが、美影は現れなかった。
そのかわり、思いがけない顔に出くわし、互いに驚き合った。
学生時代の友人、静姫(ジョンヒ)。
「せっかくだから、お茶でも飲まない?」
と誘われて、イファンがすぐに従ったのは、静姫が「ポーラー・エア」という会社を経営しているからだ。一度は民間航空の自社養成課程に入ったが、チェックオフの日に機長とケンカをして辞めてしまい、自ら会社を起こした。いわゆるブッシュパイロットとして、観光客を小型機に乗せて北極圏を飛び回っているという。
仕事の話を聞きたいと、真剣な面持ちで訊ねると、勘のいい静姫はすぐに何事かを察したらしく、
「どうしたの? 警察が嫌になったの?」
と聞き返してきた。
「そういうわけじゃないが…転職について考えていることはたしかだ」
彼が美影の保護司に自分の住所を告げたことは既に上司の知るところとなっており、やんわりと別れるよう言い渡された。あくまでも美影をパートナーにと考えるなら、辞職を考えざるを得ない。
静姫は豪快にビールをあおっている。まるで、この世にビール以外の飲み物があることを知らないかのようだ、とイファンは思った。
「民間に移るって、簡単に言うけど、シルフィードのパイロットなんか採りたがるところはないわよ」
イファンは、最初、彼女が意地悪な冗談を言っているのかと思った。が、その目は真面目だった。
「どうしてだ? シルフィードのライセンスは、固定翼双発の事業用操縦士免許も兼ねてるんだぞ」
「シルフィードは特殊すぎるのよ。垂直離着陸ができて、水中も進める。そんな機体に慣れっこになったパイロットは、普通の飛行機をすぐには飛ばせない。大手のエアラインなら、シミュレーターで徹底した移行訓練を施せるけど、小さなゼネ・アビの会社にそんな余裕はないからね。今日からでも飛べますっていう人じゃないと困るのよ」
静姫はモバイルを取り出して、求人サイトをイファンに示した。どれも「○○機の最近飛行時間○○以上」という条件がつけられている。イファンは息を呑んだ。
「やれやれ。シルフィードのパイロットでしたって言えば、どこでも引く手数多だと思ってたの? 公務員て、どうしてこう世間知らずなのかしらね」
そう言って、またぐいとビールをあおり、
「そういう、変にプライドが高いところも、シルフィードパイロットが嫌がられる理由の一つなのよ。今でも覚えてるけど、警察に入ったばかりの頃のあなたは、本当に鼻持ちならなかったわ。自分の仕事に誇りを持つのはいいけど、他はみんなカスみたいな目で見るのは幼稚な感覚よ」
こういう物の言い方をするから組織にいられなくなるのだと、イファンは憮然として静姫を見返した。静姫はまた笑い声を立てた。
「そんな顔しなさんな。もちろん、シルフィードのパイロットは絶対雇わないと言ってるわけじゃないのよ。飛行適性はあるんだから、即戦力になってくれさえすればいいの。ちょっとフライトスクールに行って、うちで使ってる機種を100飛行時間ほど練習してきてくれれば、その場で採用するわ」
静姫と別れて、イファンは重い気持ちで帰途についた。自分は色々なことを簡単に考えすぎていたようだ。警察にいた時よりも待遇が落ちることは覚悟していたが、移行訓練も自腹で受けなければならないとは。おまけに、転職後のストレスも大きそうだ。
(シルフィードのパイロットがそんな風に思われてたとはな)
静姫の言ったことは、まんざら当たっていないわけでもなかった。美影が置き手紙に書いていたように、彼は民間航空の仕事にさほど魅力を感じられなかった。救助隊のような使命感は到底得られないという意味では、たしかに、一段低く見ていたかもしれない。
自分は美影を愛している。イファンは思った。しかし、救助隊の仕事を離れても、自分は人生に満足を感じられるだろうか。
アパートメントの前の通りに出た瞬間、イファンは敏感に異変を感じて顔を上げた。
自分の部屋の窓に明かりがついている。
(美影
イファンはそう直感して部屋に走った。ドアを開けて飛び込むと、はたして、そこには美影がいた。

美影は自分の小旅行の一部始終をイファンに話した。
「やっぱりあの飛行機に乗ってたのか。きみが出かけたのと同じ日だったから、心配してたんだ」
「イファン。わたし、フライトスクールに入って、もう一度パイロットを目指してみる。雪尾さんが言ったように、本気でプロになるつもりでやってみないと、何も見えてこないから」
美影は言った。
「もし、また厳しい結果をつきつけられることになっても…わたし、今回の旅行で色々な仕事を見たの。これまでは、救助セクションに入って、人の役に立ちたい、世の中から必要とされる仕事をしたいって思ってたけど、別に、仕事の中にそういうカテゴリーがあるわけじゃないのよね。全ての仕事が、世の中との関わり方が違うだけで、『人の役に立つ仕事』であり『必要とされる仕事』なんだっていう、あたりまえのことに気がついたの。だから、パイロットになれなかったとしても、その時はちゃんと別の道を探せると思うわ」
美影の話を聞いているうちに、先刻の静姫との会話が全く別の意味を持って見えてきた。イファンは急き込むように静姫の話をした。
「もし、きみの過去が妨げになってどこにも就職できなかったら、その時は自分で会社を作ってしまうという方法もある。それなら、ぼくも一緒にやれる」
「ありがとう、イファン」
美影は微笑んだ。
「でも、あなたは今の仕事を続けることを考えてちょうだい。わたしは、いったんここを出るわ」
「美影」
「別に、依怙地になっているわけじゃないのよ」 美影は言った。
「どうしても困った時は、真っ先にあなたに相談する。でも、自分の力でやれるところまでやってみたいの。それで、もし結果を出すことができたら、警察もわたしたちのことを認めてくれるかもしれないわ」
「美影。ぼくは、静姫にこう言われた。自分の仕事に誇りを持つあまり、他の仕事を馬鹿にしているんじゃないかと。そういう意識があるから、シルフィードパイロットは敬遠されてしまうんだと。さっききみが言ったように、ぼくは自分が特別なカテゴリーの仕事をしていると思っていたのかもしれない。でも、きみの話を聞いていたら…」
「だからって、無理をして好きな仕事を捨てるっていうの? それはおかしいわ」
美影はイファンを遮った。
「イファン。あなたが救助隊の仕事に喜びを感じているなら、それがあなたの道なのよ。人はそれぞれ自分に合った道を歩いていけばいいんだわ。わたしが言ったのは、どの道も同じように尊くて大切なものだっていうだけよ」
あなたの道と、わたしの道、両方全うできるように頑張ってみましょうよと、いう美影は、彼の目に突然大人びて見えた。これまでは、どこか少女じみた、守ってやらなければならない娘だと思っていたのに。
イファンがそう言うと、美影はまた微笑った。
「もしかしたら、あの緑のオーロラを浴びた時に、わたしの中の何かが化学変化したのかもしれないわ」
イファンはその光景が映っているとでもいうように、美影の目を覗き込んだ。彼女が見た翡翠の空を自分も見てみたいと思った。


(オシマイ)


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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「そぅなんです。遭難ですぅ・・・・」 (チョロきったん)
2007-07-21 16:23:31
アンジ-さん。コンチハ~!絵何にみえますか!?
答え:テラ(地球へ)にジェットが廻って、加奈&エリカ&サオリ=我々を乗せて「いざぁ・・・・北京へ
!!」どぅでしょ。=コンナン(コナン君。)出ましたけどぅ!!本題:機長の飛鳥&副操縦士の聖佳もヤッパ最後何で・・・・出て来ましたねっ。「そうなんです。遭難です」=美影は、驚いたって!そぅりゃ、
誰でも其の立場になりゃ・・・びびる・大木にも、ナル・なる・なれ=な行5段活用有ったざんしょ・ミマイ!!(笑)ユワン違う、イファンは、いったい?!
美影にどぅしたかったんでしょうかっ・・・・??
最後は、美影を手助けして貢献したよぅ~なっ。
静姫って、「自分の仕事に誇りを持つ余り、他の仕事を馬鹿にしているじゃないかと。」ってあるが・・・
・自分の仕事に対する誇りってホコリじゃないんかっと言って、他の仕事を馬鹿にする奴は、絶対2.仕事
出来ん。=上昇志向には、慣れん・・・・なっ!!
ただ、其処までの奴ょっ。(笑。ちゃうかなっ。)
私は、思う!!あくまで、ちょロ吉の回答にて。
だって・・・・最後晴々とした光景が映っているとでも言うようにって・・・・イファンは、美影の眼を覗き込んだ。彼女が見た空(物)を自分見てみたいと思ったって・・・・答え出してくれてるゃ~ん!!
素晴らしいじゃんかっ。そんな風に言えるのは、「心
が・・・・澄んで居る人なんだぁ!!」(笑)
この世の中ギシギシ&アリ=キリギリスが、多い中ホンマいい物語を読ませて戴きました。ここで、アンジ-さん。ホンマ毎度2.有難度う!ネッ。ブログ~の
お付き合いですが・・・・4○歳は、ホンマ2.感謝2.ですょっ!!皿にちゃう。更に・・・・8/で。
1つ、歳が増える~ぅが!!仕方ないなっ。(納豆いゃ・・・・納得!!)誰でも増える2.!!(笑)
では。今日は、直帰何で・・・・まもなく帰宅します
ぅ~!!明日から、夜勤(魔の)ですぅ~「ガ~ン・
・・・!!」26日迄ですが。頑張って来ますぅ。(
笑)ほなっ・・・・アンジ-さんも、そしてお母さん
も・・・・体調には、気を付けて下さいねっ!!
                 なが2.と。
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チョロきったんさん (アンジー)
2007-07-21 20:07:42
ハーイ、正解でーす。加奈さん達が乗っているのまで見えましたか チョロきったんさんは、ひょっとしてミュウ?
飛鳥のキャラクターはチョロきったんさんのコメントにインスピレーションを頂きました(笑) すべってばっかりですが
夜勤、大変ですね。蒸し暑い日が続いているので、チョロきったんさんもお体気をつけて下さい。
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お疲れ様です♪ (murasan)
2007-07-21 21:26:52
この絵は満月を背景に、飛行機に乗ってる
バレー全日本では☆

そうでしたか~最初に、すべて制作してるんですね♪
それも時間がかかるし、すごいと思います☆
美影といい、魅力あるキャラの創造を見習いたいです!!
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murasanさん (アンジー)
2007-07-21 21:35:29
おおっ、みなさん全日本のメンバーが見えるようですね。あの満月のようなメダルに向かって…!
仙人さんもエースさんも、思わず応援したくなる魅力がありますね。ツートップの快進撃を祈っています。
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面白かった! (めめ)
2007-07-22 00:19:42
こんにちは!



あの絵の飛行機には、全日本が乗っているんですね!

光輝く満月、とってもキレイです♪



ミヨンは、いい経験をしましたね。

迷うことなく、自分の道を歩いて欲しいと思います!

今回は、イファンとの恋の行方も気になりましたが…。

ステキなパートナーでうらやましい…!!
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めめさん (アンジー)
2007-07-22 15:47:08
手描きだとバックを塗るのが大変そうだなーと思って、お絵かきソフトにしてみたんですが、どちらも一長一短で、結局同じくらい手間がかかりました(笑)
過ちをおかしたり、回り道をした時でも変わらず側にいてくれる人っていいですね。わたしもそんなパートナーがほしいです。
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自立 (tami)
2007-07-22 23:16:28
こんばんは。

自立する女。

それを見守る男。

いや~今回も面白かったですよ。

アンジーさんにもそんな包容力のある男性に巡りあえますことを祈ってますよ~。(笑)
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tamiさん (アンジー)
2007-07-23 16:29:16
「パートナー」という言葉には、自立した人間同士の結びつき、というニュアンスがありますね。
わたしも、そんなパートナーシップを結びたいです。
tamiさんがお祈りして下さったので、御利益がありそうですね
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