BE HAPPY!

大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

ギフト(1)

2007-03-12 17:39:29 | Angel ☆ knight
   
「今回は番外編なので、いつもみたいな事件は起こりません。でも、ぼく、大変なことになっちゃったの。ふみゅー」

 エスペラント・シティに何日も雨が降り続いた時のお話しです。

雨は、カムイという少年がシティ病院に運ばれてきた日に降り始めました。
カムイは『安楽園』の子供です。朝起きると、突然足が動かなくなったというので、園長(ファーザー)の江流(コウリュウ)に背負われ、シスター・シシィに付き添われて、病院にやって来ました。
検査をしても、原因はわかりません。お父さんとお母さんを目の前で撃ち殺されたり、マフィアに命を狙われたりと、幼い子供には過酷すぎる出来事が続いたので、そのストレスが一気に噴き出してしまったのでしょうか。
カムイは入院して、心と足の治療を受けることになりました。ファーザーとシスターが帰ってしまうと、カムイはたまらなく心細くなり、枕に顔を埋めてふみゅみゅんみゅん、ふみゅみゅんみゅん、と泣き始めました。
窓の外ではいつのまにか、糸のように細い雨がサアァ、サアァと降り始めました。

 カウンセリングを受けたり、点滴をしたり、お薬を飲んだり、マッサージや電気療法を受けたりしながら、カムイは歩く練習を始めました。歩けないからといってじっとしていると、骨や筋肉が痩せてますます動けなくなってしまうからです。
カムイの足は二本の石柱になってしまったように、重く冷たく、まるで動こうとしません。補助具をつけて一生懸命バーにしがみついても、腕が疲れると滑り落ちてしまいます。何べん繰り返しても同じこと。とても自分の足で立ったり歩いたりなんてできそうにありません。
カムイはリハビリセンターの床に転がって泣きました。ふみゃーん、はぎゃーん。
雨も一緒になってリハビリセンターの窓を叩きます。トタドタトタッ トタドタトタッ。

 『安楽園』でカムイと一番仲の良いミアイルがお見舞いに来ました。
ミアイルは、『幸せ売り 2』という本を持ってきてくれました。
カムイは『幸せ売り』のお話しが大好きです。幸せ売りは、昔、人間と一緒に仲良く暮らしていました。人間が幸せ売りに微笑みかけると、幸せ売りはその微笑みで幸せのベールを編みます。幸せ売りが風に乗って飛ぶと、幸せのベールも風に吹かれて飛んで行き、人々の頭上に舞い降ります。しかし、ある国の王様が幸せを一人占めにしようとして、軍隊に幸せ売りを狩り集めさせました。幸せ売りは人間に姿を変えてその目をくらませ、人々の目には幸せ売りの姿が見えなくなってしまいました。
ミアイルが持ってきてくれた本は、その続きです。人間に姿を変えた幸せ売りが、正体を知られないようにしながら幸せを配るお話しです。
「ぼく、歩く練習なんかキライ。体中痛くなってお熱も出てくるし、どんなにやってもちっとも足に力が入らないんだもん。ああぁ、幸せ売りがいたら、ぼくの足を治してくれるのになぁ」
ミアイルは、
「ぼく、また来るからね。元気出してね。クマたん」
と言って帰って行きました。
次の日、カムイは歩く練習はせず、ずっとベッドの中で本を読んでいました。
本には、何年も病気で寝たきりの女の子と、「こんな体に産んでしまってごめんね」と嘆き暮らすお母さん、「わたしが代わってやれたらどんなにいいだろう」と毎日思い詰めているお父さんが出てきました。
(きっと、幸せ売りがきて、女の子の病気を治してくれるんだ)
カムイはわくわくしながらページをめくりました。
女の子の家では、毎年春になると庭師に庭の手入れをして貰います。いつも来てくれる庭師の都合がつかなかったので、今年は別の庭師がやってきました。
「いいお天気ですよ。窓を開けてはどうですか?」
庭師がそう言ってずっと閉ざされていた窓を開けたので、女の子もふと外に目をやりました。
「見て、お母さん、あんなにきれいな花が咲いているわ」
「そういえば、この間からだんだん蕾がふくらんできていたわね」
「わぁ、見て。あんなに可愛い小鳥が飛んできたわ」
「花の蜜を吸いにきたのね」
女の子が歓声を上げているのは、別段珍しい光景ではありません。花は毎年その庭に咲いているし、鳥も毎年やってくるありふれた鳥です。
女の子が庭に出たいというので、お母さんは女の子を車椅子に乗せて庭に出ました。女の子は、「見て、この花、金平糖みたいよ」「この花は何ていい匂いがするんでしょう」とはしゃいでいます。どうせ外に出られないのだからと、何年もカーテンを閉ざしていたので、庭にあるものがすべて新鮮で美しく感じられたのです。女の子が微笑むたびに、きらっ、きらっ 庭師の手の間で糸のような光がひらめきます。
女の子があまり楽しそうなので、お母さんも嬉しくなって思わず微笑みました。まあ、この子のこんな顔を見るのは久しぶりだわ。するとまた、庭師の手に光の糸が躍ります。やがて、二人の微笑みから三枚の幸せのベールが編み上がりました。
ベールは柔らかな風にのって、女の子の頭とお母さんの頭に、一つずつ舞い降りました。
もう一枚は木の枝にひっかかり、お父さんが帰って来た時に、ふわりとその肩の上に落ちました。
女の子はお父さんに、家の庭がどんなにきれいだったかを話しました。カーテンを開ければ、庭はベッドの上からでも毎日眺めることができます。庭師は、お母さんがいつも心をこめて庭を手入れしていることや、お父さんがケガをした小鳥の手当をしたり、毎年巣作りをする枝は決して切らないようにしていることを話したので、女の子は二人に「ありがとう」を言いました。庭がこんなに素敵なのは、二人のおかげだと思ったからです。
女の子が眠ってしまうと、お父さんとお母さんはお茶を飲みながらこんなことを話しました。
「あの庭師さんは初めての人なのに、どうしてあんなことを知っていたのかしら。いつもの人に聞いたのかしら」
「そうじゃないかい? あの人の紹介で来たんだろう?」
「わたしはあの子を健康に産んでやれなかったことがずっと辛かったけど、あの子はベッドに寝たきりの生活でもちゃんと幸せを見つけられる子だったのね。これからは、あの子の体のことを嘆くのはやめて、あの子にたくさん幸せを感じさせてやることを考えるようにするわ」
「わたしも、あの子の苦しみをかわってやれたらとばかり考えていたが、それは無理な話だからな。あの子が味わわなければならない苦しみより、ずっと多くの幸せを感じられるようにしてやろうと思うよ」

 カムイには、このお話しがよくわかりませんでした。
幸せ売りが女の子の病気を治してあげて、女の子もお父さんもお母さんも幸せになるものとばかり思っていたからです。
なのに、女の子は相変わらずベッドで寝たきりです。幸せのベールをかぶっても、何も変わらないように見えます。
「こんなの、何か変。どうして幸せ売りは病気を治してあげないの?」
カムイは本を押しやると、枕に顔を埋めてみゅんみゅん泣きました。
外はまだ雨が降り続いています。サァァァ、サァァァ…

(続く)