「美しい村」の議員日記

南アルプス山麓・大鹿村在住。自給自足農業、在宅ワーカー、2011年春より村議会議員。

南アルプスリレー講座

2012年10月19日 | 自然・環境
 昨夜は富士見町で開催された第2回目の南アルプスリレー講座に行ってきた。今回は「南アルプスの動物の価値と危機」というタイトルで、信大の竹田謙一先生によるお話だった。竹田先生はシカの専門家で、大鹿のシカ対策にもご協力いただいている方なので、きっと南アルプスの高山植物に危機をもたらすシカの話が中心だろうと思って聞きに行く。
 南アルプスの生物多様性という点からいうと、いわゆる希少種で、ここにしかいない種類というのは、哺乳類では特にいないが、アズミトガリネズミとホンドオコジョが南限種になるそうだ。あと、鳥類のライチョウも南アルプスが南限。両生類ではアカイシサンショウウオが環境省の絶滅危惧1B類で、南アルプス南部にしかいない。
 特別天然記念物にもなっているライチョウについては、国の保護計画も進められているが、その生息域を脅かしているものの一つがシカの高山帯への進出。南アルプスではシカが高山のお花畑などに壊滅的な被害を与え、最近では防護柵で保護したりしている状況だけれども、ライチョウも高山植物を食べるので餌がなくなってしまう。スライドでは塩見岳の1979年のお花畑の写真と、同じ場所が2005年には花が全くなく草原になった状態、2010年には緑も失われ、裸地化しているところも目立つ状況になっている写真などを見せていただいた。この夏につれあいが塩見岳に行ったときには、同じ場所に土砂流出を防ぐための植生復元マットが敷設されていたそうだ。ダケカンバがシカの口が届く範囲はすべて葉っぱが食べ尽くされて、ブラウジングラインが形成されている写真なども見せていただいた。
 今やニホンジカの影響は、個別的な作物の食害などの農業被害から、林業被害、表土流出による土砂崩れ被害、さらには生態系改変をもたらす国民的な被害へと拡大しているという言い方をされていた。
 ニホンジカはカモシカと異なり、なわばりを持たないそうで、だから生息密度が高くなる。メスは定着傾向が強く、入笠山の牧場などもメスばかりだそうだ。一方、オスは広範囲を移動し、北沢峠にいた個体が、冬は白州まで下りて、夏はなんと塩見岳まで移動していたそうだ。
 長野県では十万頭以上生息していると推計されるシカを、5年後に3万5000頭まで減らすという管理計画を定めているが、猟師さんも高齢化し、数も減っている中で、いかにして?という問題も大きい。この管理計画を受けて、今年は大鹿村でもくくりわなを仕掛けて、シカをたくさん取っているけれども、食用に搬出できないので、穴を掘って埋めている状態で、それも心が痛むし、また別の影響も心配される。
 世界自然遺産ということでいうと、知床世界自然遺産においてもやはりエゾシカの採食圧による自然植生への影響が大きいため、エゾシカの保護管理計画が定められている。ここではエゾシカの増加要因が生態的過程か人為的なものかは判断できないとされているが、竹田先生は南アルプスにおいては人為的なものだとされた。人為的な要因でシカが増えて、生態系に甚大な影響が生じている現状に対して、人間の手で何とかしなくてはということなのだろうけれども、下手に人間が関与すれば、また別の問題を生み出すこともあるだろうし、難しい問題。最近、シカの天敵となるオオカミを導入したらどうかという話があるが、それについては竹田先生は否定的だった。よく成功例として挙げられるイエローストーンでは、すべてのオオカミに発信器を付けて管理しているそうだ。でも、日本の地形ではそれはとても無理だろうと。
 シカの話を聞いた後の帰り道、いつにも増して、たくさんのシカたちに遭遇した。

※今日は南アルプス赤石岳などが初冠雪。こちらに写真をアップしました。