中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

裂織、繋ぎ糸織

2017年11月03日 | 着姿・作品

先日織り上げた帯の後に経糸が5寸ほど残りました。
経糸を捨てるのはもったいないので小さな卓布を裂き糸で織ってみました。何の裂かおわかりになりますでしょうか?


アップにすると小さな水玉です。修業に入る少し前の40数年前、気に入って着ていた赤茶色の細いボウタイのブラウスでした。生地は上質の薄手の綿です。バイアス仕立になっていました。

修業に入ってからは工房と家を往復するだけの毎日でしたので、擦り切れたGパンにトレーナーやTシャツ、インド綿のザックリしたシャツなど作業着で一年中過ごしていましたので、もうそのおしゃれなブラウスを着る機会もなくなり、年月が経ちしまわれていしまいました。

晩年の母は、私達が着なくなった服や、子供の頃に着ていた古い着物、布団側など、使えるものは生地として生かし、使えないものは布を裂いて玉にして置いてくれていました。裂けない生地は細くハサミで切ったものもありました。いつか時間が出来たら織りなさいと――。

ブラウスはバイアス断ちのものでしたので四角い布を裂いたのとは違う、裂き止まりのところが不規則にポコッと表れ、それが面白いと思いました。
着ることは一生のこと。洋服でも思い出はたくさんあります。織りながら若かりし日々のこと、母のことをたくさん思い出しました。

昔、擦り切れてどうにも使えない布は裂いてまた織って、仕事着や敷物やこたつ掛け、帯などにして使ってきた歴史があります。
若い頃からそうした古い裂織も博物館などで見てきましたが、今の恵まれた時代からは想像もつかない厳しさの中から自ずと生まれてきた布です。ただ、そこには貧しさやみすぼらしさということではない裂き織りならではの面白味や美の世界、アート性も時に表れてきます。
それはなぜなのかをずうっと考えています。いくつかの要因がありますが、今ここでは述べないでおきますが、裂き織りは新しい布を簡単に裂くものではないし、新たに再生させていくというきちんとしたコンセプトをもって臨まなければならないと私は考えています。




こちらは以前試作で作ったトートバッグで、私が冬になると使っているのですが、大学生の時に着ていたコットン、シルクの紬風チェックのワンピース生地を使った裂き織りです。
ベースの糸は赤城の1500デニールぐらいの節糸でしたが、この糸は手に入らなくなりバッグの制作も中断したままになっています。裂き糸を生かせるベースの糸も重要ですので。
現代の裂織にどんなメッセージを込め、いいものに再生できるか、今後の仕事の一つとして温めています。


織の最後には短い糸を繋いだものや僅かな残糸などで織り仕舞いのために1寸ほど織ります。経て継ぎ用に経糸を1尺残すためです。
繋ぎ糸も思いがけない模様が浮かび上がってきて、着尺や帯に意図的に使うことがあります。
実は今回織った帯も繋ぎ糸をアクセントにしたものです。現代感覚ですが、、。
また次の展示会でご覧いただきましょう。
この織り仕舞いの1寸の布も捨てません。これも裂き織りの材料になります。修業時代にこの端っこだけで卓布を織らせていただいたことがあります。裂くことは出来ませんので、ハサミで7ミリ幅ぐらいに切りました。ものすごく濃厚なものでした。

布や糸をとことん使いながら、その思いがけない面白み、味わいを現代にも生かしたいです。
ただ、そのもとにあった歴史もこころに留めておかなければいけないと思います。

いつか紬塾を修了の方たち向けに裂き織りの講座ができたらと思っています。
自分が使ってきた古布と向き合い、もう一度蘇らせるために。
布は何かの役に立ちます。簡単に捨てられないものです。捨てられないから何を買うかも問われてきます。
裂き織りがたくさんのことを教えてくれます。「布買ってくる、自分買ってくる」ですね。


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