備忘録として

タイトルのまま

Copernican Revolution

2014-03-16 22:18:37 | 話の種

 コペ転とまで言われた発見が一転して自分で転んで(自転?)しまった。STAP細胞のことである。1月末の発表時、海外の新聞には、Copernican revolution (コペルニクス的転回=コペ転)、surprising (驚くべき)、break through(突破口を開く)、game changer(試合をひっくり返す)、explosive findings(爆発的な発見)、overnight sensation(一晩で大評判)といった最大級の賛辞が並んだ。シンガポールの新聞”The Strait Times”も、revolutionary way(革命的方法)と書いた。3月14日の理研の中間報告後は一転、plagiarism(盗作、剽窃ひょうせつ), duplicate(コピー), deliberate misconduct(意図的な不正行為), fault(欠陥), irregularity(不正)、serious error(重大な間違い), inappropriate(不適切な), exaggeration(誇張), fraud(欺瞞)、manipulation(ごまかし)、unpleasant ingredients(不適切な合成)などという容赦ない言葉が並んだ。中間報告の記者会見から野依良治理事長のことばを、毎日新聞3月14日(金)付記事から抜出しコピペした。

理研の研究者による研究論文に疑義があったことについて、世間の皆さまをお騒がせし、ご心配をかけたことをおわび申し上げます。論文が科学と社会の信頼性を揺るがしかねない事態を引き起こしたことについて、おわびと同時に私の口から直接説明したい。科学者は実験結果やそこから導き出される結論に全面的に責任を負わなければいけない。とくに根拠となる自らの実験結果については客観的かつ十分慎重に取り扱う必要がある。STAP現象の再現性と信頼性は、理研の研究者が厳密に検証し、同時に第三者による追試で証明されるものであり、外部で十分な検証ができるよう積極的に協力し、情報と必要な材料を提供するよう指示をした。

ネイチャー論文について重大な過誤があったことははなはだ遺憾だ。論文の取り下げも視野に入れ、引き続き調査を続けると同時に不正と認められた場合は厳正に処分を行う。科学者倫理を真摯(しんし)に順守しつつ、社会の期待に応えるべく研究を行うよう全所的に教育と指導を徹底する。科学研究には批判精神が不可欠であり、質疑には真摯に対応したい。(ここまで冒頭のあいさつ)

大変ゆゆしき問題だと思っている。科学の主張をするわけだから、それを納得させる客観的事実が論文に記載されるべきだ。極めてずさんな取り扱いがあった。あってはならない問題だ。

処分とは関係ないが、今回のように未熟な研究者が膨大なデータを集積し、ずさんに無責任に扱ってきたことはあってはならない。徹底的に教育し直さないといけない。こういうことが出たのは氷山の一角かもしれない。川合理事が言うように倫理教育をもう一度徹底してやり直し指導していきたい。

考えていかねばならない。シニアになればなるほど故意であってもなくても、起こした問題への責任は大きい。笹井副センター長は竹市センター長のもとで研究してきたので、竹市センター長がどう考えているかということはあるが、責任は非常に重いと考えている。処分という言い方は不適切ではないかと思う。まず第一に反省をせねばならない。これからどう研究者として活動していくかを表明することが大事だ。

科学的手法の根拠については、客観的慎重に取り扱う必要があると言っている。4チーム14人の協力者がいるということに一つのポイントがあると思っている。伝統的な科学研究の多くは比較的狭い分野別に行われ、単一の研究室で行われていたことが多かった。今はネットワーク型の時代、先端的な研究は分野横断的に行われることになっている。複数の研究室が自分たちの強みを生かしてやらねば、研究成果の最大化は図れないことになっている。信頼と確実な実験結果を齟齬(そご)なく統合して、検証するプロセスがあり、責任者が必要だ。今回は一人の未熟な研究者が膨大なデータをとりまとめた。責任感に乏しく、チーム連携に不備があったと私は思っている。

同日の”Los Angels Times”は、野依理事長の話を以下のように簡略に訳している。

RIKEN President Ryoji Noyori said Friday that he was prepared to punish any researchers who are found to have engaged in deliberate misconduct. "Should the investigative committee conclude that there was research misconduct, we will take strict disciplinary action as stipulated by our own regulations," he said. Noyori also expressed "my deepest regrets that articles published in Nature by RIKEN scientists are bringing into question the credibility of the scientific community." 

直訳:理研理事長の野依良治は金曜日に、故意に不正行為を行ったことが判明した研究者については処分する用意があると述べた。調査委員会が研究に不正行為があると結論すれば、我々自身の規則に従い厳格な懲戒的な行動をとるだろうと述べ、さらに理研の科学者によってNatureに発表された論文が科学界の信頼をそこねることになったことに深い後悔を表明した。

論文は撤回する方向に進んでいるようにみえるが、共著者でハーバード付属病院のヴァカンティ教授はSTAP細胞は存在し論文の根幹は揺るがないとして論文取り下げには賛成していない。STAP細胞が実際に存在するかどうかはまだ未解決のままである。カリフォルニア大学のKnoepfler准教授が以下のブログで追試のデータを集めたがこの1か月余りの間に誰も成功した者はいないという。

http://www.ipscell.com/

STAPはほんとうに”The End"なのだろうか。Knoepflerブログでは論文の不備が徐々に明らかになって以降も読者の3割近くがSTAP細胞の存在に比較的肯定的であるというデータが示されている。

自分も異なる科学分野にいて和英両方で論文を書くが、ネットにさらされた小保方さんの博士論文は少し読めばパクリの部分と本人の書いた稚拙な部分の相違は明白である。論文査読者は不思議には思わなかったのだろうか。共著者は論文の内容確認もしないで、世界中の権威が読むNatureに掲載する重みを感じていなかったのだろうか。息子はもう10年も前にシンガポールのアメリカンスクール(高校)に通ったが、そこではすでに生徒の提出物にパクリ防止用のソフトが使われていた。ねつ造は後をたたない。アカデミックな世界が性善説の世界でないことは明白なのだから早稲田も理研もアメスクを見習うべきだ。いずれにしても、”科学界の信頼を損ねる”論文が出たことは、門外漢の自分でさえ日本人として恥ずかしく情けなく腹立たしいのだから、野依さんの気持ちは察してあまりある。

若い頃、コペルニクス的転回(Copernician revolution)を世間はコペ転と呼んでいた。Paradigm Shift(パラダイムシフト)発想の転換である。あるいは固定観念を捨てることである。この絶望的な状況を抜け出すのはコペ転を完成させるしかない。

コペルニクス的転回に匹敵するウェゲナーの大陸移動説は1912年に提唱されたが、その後ずっと顧みられることはなかった。1960年代には海洋底が拡大していることからプレートテクトニクス理論が確立されたが、それでも1980年ごろの私の大学の地質学科でプレートテクトニクスを信じる先生は少数派だった。それが、拡大中の海洋底の地形が世界中でより明らかになり、実際に人工衛星を使って大陸の移動量を測ることができるようになってプレートテクトニクスを信じない研究者はいなくなった。そこにたどり着くまでウェゲナーの提唱から80年近くの歳月が必要だったのである。

トロイの遺跡を発見したシュリーマンには、ほら吹きという評価があることを以前書いた。シュリーマンの評価には、fraud(欺瞞)、distortion(歪曲)、exaggeration(誇張)という言葉が並んでいた。STAP細胞の論文に対しても、同じ言葉が使われてしまった。それでも、シュリーマンがトロイの遺跡を発見した事実は微動もしないのである。

世界中の生命科学者と生物学者がSTAP細胞の発見に驚き一度は称賛したということは、STAP細胞に理論的な可能性があるということだと思う。STAP細胞が第3者の追試によって再生されさえすれば小保方さんは歴史に名を残せるのだ。 


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