備忘録として

タイトルのまま

Regulatory Capture

2012-07-07 12:17:22 | 話の種

 福島第一原発の国会事故調査委員会の報告書が出た。要旨のみ読んだ。報告書は福島第一原発事故は日本の政官財の癒着構造による人災であり、根本原因を”Regulatory Capture”によるものとし、それは”規制の虜”と訳されていた。安全を守るべき規制当局が事業者の虜になっていたというのである。Regulatory Captureは、英語版wikiで以下のように定義されているので自分なりに訳してみた。

In economics, regulatory capture occurs when a state regulatory agency, created to act in the public interest, instead advances the commercial or special interests that dominate the industry or sector it is charged with regulating. Regulatory capture is a form of government failure, as it can act as an encouragement for large firms to produce negative externalities. The agencies are called "captured agencies".

訳:経済学でRegulatory Capture(規制の虜)とは、公共の利益を守るために創設された政府の規制機関が、本来規制すべき業界やセクターが独占する商業的利益や特定の利益を優先するときに起こる。Reguratory Captureは、一種の統治機能の崩壊で、大企業が負の外部性(経済用語=外部への負の影響)をもたらす方向に作用する。そのような政府機関を”虜になった機関”と呼ぶ。

 wikiにはRegulatory captureの具体例が示され、日本の項には、薬害エイズで厚生省が製薬会社の虜になった例と、電力会社の虜になった原子力安全保安院(NISA)の例が記されている。そこには、経産省と東電も実名で登場し、NISAが原発を推進する経産省の一機関である以上、watchdogの役割を果たせないことや、amakudari=”descent from heaven"があるため安全基準の改定が事業者(企業)に握られているとされ、基本的に国会事故調報告書が指摘する構図と同様の内容になっている。wikiが参考文献としてあげた2007年12月のBroombergの記事(http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=awR8KsLlAcSo)には、安全基準を作成する委員(実名がでている)が電力事業者のアドバイザーになり、基準を書き換えた例を上げ、本来、独立性が求められる監視側の人間が監視される側にも立つという利害に反する行為(Conflict of Interest)が許される構造に日本の原子力の脆弱性があるとしている。翻ってフランスやアメリカの規制機関は、事業者や政府から完全な独立性を有していると記事には書かれている。福島の何年も前から、日本の原子力推進における構造的な問題は、このように指摘されていたのである。

 調査委報告書で感心したのは、活動のキーワード”国民、未来、世界”が示されていることである。キーワードは事故調委員の行動規範であり判断の拠り所となるものである。すなわち、この調査は誰のために何のために実施したかが高らかに宣言され、委員は世界中からの評価を意識し、さらには歴史の審判も意識ながら活動したと考えてもいいと思う。それは、委員長が”はじめに”で福島県出身の歴史学者・朝河貫一の業績に言及していることからわかる。朝河貫一は日露戦争後に日本の行く末を憂い、日本の外から客観的な視点で”日本の禍機(禍の兆し)”を書き警告を発したが、その警告に耳を傾ける日本人はおらず、彼の予測通り日本は戦争の道を突き進んだのである。

 報告書は、社会構造とマインドセット(思い込み)の改革を進言している。社会構造改革とは、政府の役割、規制組織の役割、電気事業者の役割を明確に区分規定し、真の独立性を持たせることである。日本でしか運用されていない安全基準を国際基準とし、事業者優先のマインドセットを捨て、日本の原子力政策を国民の安全を第一に考えるものに根本的に変革するべきだとしている。


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