昨年の今頃、世界はＩＳとテロに怯えていた。もちろん、テロは世界各地で今も起こっているし、ＩＳも消滅したわけではない。だが、ＩＳの影響力は明らかに弱まっている。イラクやシリアにおいては、支配地の拡大よりも縮小の傾向にある。それに伴って、テロ自体の規模も、組織的と言うよりも、インターネットによって触発された個人の単発的な犯行に重点が移りつつある。組織的な攻撃と言えばトルコというＩＳに近接する場所だ。さらに、ＩＳの衰退によって、これまでは世界のイスラム系の反政府勢力はＩＳの旗のもとに、結集していたのであるが、その旗が色あせるに従い、例えば、ナイジェリアのボコ・ハラムのように、少しづつだが、態度を軟化させるところも出てきている。シリアでは、これまでの欧米＋ロシア対ＩＳの構図が崩れ、明らかに、シリア＋ロシア対欧米という構図に様変わりし始めた。これまで、欧米よりであったトルコがロシアに接近し、イランもロシア寄りになっている。この力学の変化が中東の新たな火種になりかねないのである。さて、シリア内戦が膨大な避難民を出したのであるが、古来より、民族大移動は貧しい地域の人たちが豊かな地域へと移ることによって生じる。それによって、豊かな地域は混乱に沈む。ローマ帝国はそうして沈み、ヨーロッパは沈滞の世紀に入った。これからのヨーロッパがアメリカ型の社会に変質できるか。それとも、過去の中世ヨーロッパ型の社会に沈むかの境目にあるような気がする。(2017.1.3)
