情報によって、私たち自身が苦しむ。

通常に、忙しく働きまわる人間には気づかないことも、病室で、静かに寝ている者には、気づくこともある。最近では、静かに繰り返される余震である。テレビに地震情報が流される規模ならば、誰もが一瞬身構えるのだが、それ以下であれば、せいぜい、“立ちくらみだな”程度で済ませてしまう。さて、病院の病人達である。細かな余震が続いて、体調の変化を起す人も出てくる。ある老婦人である。乳がんが見つかった。もちろん、地震との因果関係は証明できない。たが、地震後に、今までないと思われていた乳がんが見つかったのである。しかも、若い医者の見立てでは、かなり深刻な状況だと言う。若い医者は抗がん剤治療が必要だと家族に話す。こうして、抗がん剤治療が始まったのだが、ちょっと待って欲しいと私は思う。この老婦人は９２歳なのである。乳がんが見つかったと言っても、それで苦しんでいたわけではない。食事も普通に召し上がっていた。けれど、この抗がん剤治療を受けて、この老婦人の苦しみの日々が始まった。食事もまともにとれなくなって、やせ衰えていくばかりなのだ。これで、命がわずかに長らえて何の意味があるのだろう。これからの世はクラウドを初め、私たちに必要だといって、流されてくる情報は多い。情報に接地すれば、対応したくなる。この老婦人のご家族のように、しなければならないと思う。けれど、それによって、私たち自身が苦しむ場面も多くなるのである。

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