「三重(さんじゅう)の最も遠い惑星を見た」
と1610年にその惑星に望遠鏡を向けたガリレオは書きました。
ガリレオの作った望遠鏡は、今からは考えられないほど性能が悪い(レンズの作りが悪い)ものでしたから、現在なら誰でも知っているこの惑星の姿を正しく捉えることが出来ず、
三つの星が直線に並んだ惑星
と見誤ったのでした。
彼はまたこの星を「耳のある惑星」とも表現しています。
その惑星の名前は土星。おなじみの環のある惑星です。
◇ガリレオを悩ませた星
ガリレオは既に木星に衛星を発見(木星の4大衛星、通称ガリレオ衛星のこと)していましたから、どうやら土星にも二つの巨大な衛星があると考えたようです。
ただ木星の衛星が日々その位置を変える天体であるのに対して、土星のこの巨大な衛星は位置を変えることなく同じように土星に張り付くように見え続けました。不思議な惑星でした(だから、「耳のある惑星」と表現したのでしょう)。
その形状から、ガリレオを悩ませたこの土星の耳ですが、それから 2年後、この耳はさらにガリレオを悩ますことになりました。あんなに特徴的だったその耳が消えてしまったからです。
そしてさらに 1年たつと消えたはずの耳は再び何事もなくその姿を現しました。神出鬼没の不思議な土星の耳でした。
結局のところガリレオを悩ませたこの土星の耳の謎は、ガリレオが生きている間には解けることはありませんでした。
◇そして今年もまた・・・
ガリレオを悩ませた土星の耳は今では子供でも「土星の環」として知っています。
望遠鏡による観望会などを開くと、見たい天体の第一位は土星。
みんな口を揃えて言います。
土星の環っかが見たい
と。
「土星の環」とひと口に言いますが、環と言ってもひとつではありません。
現在知られている土星の環はA環~G環までの 7つあり、さらに探査機などによって幾つかの「環」が見つかっていて、全部併せると11(2009年の時点で)になります。
A~G環がどのように並んでいるかというと、内側から順にD環,C環,B環,A環,F環,G環,E環の順となります。ただし、私たちが普通の望遠鏡や写真などで見知った土星の輪はA,B,C環あるいは、これに D環を加えたものです。
一見すると一枚のように見える土星の環ですが、実際の環は沢山の小天体で構成されています(各々の直径は、数十m 以下の氷のような物質だと考えられています)。
環の幅は数万キロもありますが、厚さとしては数百m を越えない(おそらくは100m以下)もので、幅に比べるととても薄いものだと言うことが出来ます。
ともあれ、土星といえば「環」と言うほど有名な土星の環ですが、今年はその土星の環っかが消えてしまう年、環の消失する年にあたっています。
なお、環の消失はおよそ15年に 1度起こる現象です。ガリレオを悩ませた、土星の耳が見えなくなる現象は、この15年に 1度起こる現象だったのでした。
◇土星の環の消失
環の消失といってももちろん環が跡形も無く消えて無くなるわけではありません。単に見えなくなってしまうだけです。
既に一昨年、昨年くらいから土星の環はどんどん細くなってきていました。
そして今年はついに消失と呼ばれる現象が起こります。
既に説明したとおり土星の環は大変に薄ものですから、真横から見ると全く見えなくなってしまいます。地球がこの環を真横から見る位置にくるのは今年の 9/4です。
さて、環を真横から見る位置に地球がくるのは 9/4ならもう少し後にこの話を書けばよいものを、こんなに早く書かなくともいいのに・・・と思われそうですが本日書いたのにはそれなりの理由があります。
それは、8/11に環の消失が起きたからです。
この環の消失は、地球からでは無く太陽から見て環が真横に見えるために起こる現象です。
土星の環も、惑星や衛星がそうであるように自分で光っているわけでは無く、太陽の光を反射して光っているわけですから、太陽に対して真横を向く位置にくると、反射する面が極々わずかになりますから、事実上見えない状態となります。
そしてしばらく地球からは土星の環の影の部分を眺めることになります。影の部分から見る土星の環は淡く、普通の環の姿とは違った一風変わった姿となるのですが、今回は土星が太陽に近い方向に見える時期にこの状態となるため、この影の側から見た環を見るチャンスが少ないのが残念です。
◇土星は今、どこに見える
土星は日が沈んでから暫くは、西の空の低空に見る事が出来ます。
土星が西の空に沈む時刻は20時30分頃。
日没後、西の空が晴れていたら望遠鏡を土星に向けてみると、環のないちょっと情けない姿の土星を見ることが出来るはずです。
ガリレオを悩ませた、耳のない土星をあなたも眺めてみませんか?