あんなこと こんなこと 京からの独り言

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日本人気質の原点

2016年07月31日 | うんちく・小ネタ



進路選択を目前にした高校生や大学生を対象としたキャリアデザインの講義を行う人と交流があります。
その人は、悩める若人に食品メーカーの楽しさを提示し、選択肢の一つに加えてもらおうと、カリキュラムを組んでいます。
その際、サブテーマとして「偶然もチャンスに変える生き方が好きよ」というセーラームーンの主題歌の一節を引用し、実際に楽曲を流すそうです。

高校生の3割が将来の職業を決めて大学を選択しているという現況において、もっと行き当たりばったりで肩の力を抜き、「偶然もチャンスに変える」将来設計もあるぞという主旨の講義なのです。
そして、偶然もチャンスに変えた食品の事例として 「納豆」「酢」「かつお節」などの発酵食品を紹介し、食品業界へといざなうのだとか。




○納豆
鎌倉時代、武士が煮豆を藁で包んで馬で運んでいた時、馬の体温と藁の納豆菌で煮豆が発酵し、納豆が完成。馬、藁、煮豆+最初に食べた人の勇気という偶然が重なり、チャンスが到来しました。





○酢
華屋与兵衛と中埜又左衛門の偶然の出会い。江戸で寿司の屋台を引いていた与兵衛は、当時主流だった「なれずし」の発酵期間の長さに頭を痛めていたそうです。
気の短い江戸ッ子に、目の前で即にぎりを出したい。そこで、乳酸の酸味をあきらめ、酒屋の又左衛門に酢の生産を依頼。
アルコール発酵の失敗産物である酢酸を商品に変えた又左衛門。後のミツカンの創業者です。





〇かつお節
江戸初期に完成したかつお節は、煮たカツオを煙でいぶしただけの「荒節」で、日持ちのしない食品でした。
元禄時代のある日、偶然かびてしまった荒節を食べたところ、味がまろやかになっている上に保存性が向上することがわかります。日本人の知恵で「枯節」が完成した瞬間でした。

 


ここで講師役の人の人が少し反省。偶然もチャンスに変えたこれらの発酵食品に罪は無いものの、自身の行き当たりばったりの人生を無理やり肯定しようとする講義に問題は無いのか・・と。
若人に綱渡り人生を押しつけていいのか・・と。
早い段階からしっかりとした人生設計と目標設定があるに越したことはありません。ただ、設計通り行かないのが人生。
その修羅場と土壇場を乗り切るヒントとして発酵食品を取り上げたわけですから、この思考回路こそ、日本人気質の原点ではないかと、聞いていて思った次第です。




今も昔もダークサイトな思考に堕ちる人が多いのは・・・何故?

2016年07月03日 | うんちく・小ネタ



NHKBSプレミアムで「フランケンシュタインの誘惑」という番組があります。
番宣コピーのダーク感がなかなかもの。


「科学は、人間に夢を見せる一方で、ときに残酷な結果をつきつける。理想の人間を作ろうとした科学者フランケンシュタインが、怪物を生み出してしまったように…」

要するに、人類の発展のために消されてしまった「科学の闇」にスポットを当てる番組で、昨年放送された数回の特番が好評で見事に番組昇格となったのです。
過去の番組内容を紹介しましょう。



1912年、神の手を持つ天才外科医アレクシス・カレルは、臓器移植の功績が認められノーベル賞を受賞。
その際、業績は「不死の細胞」のおかげだと主張し、細胞は永遠に生き続けられることが医学界の常識となります。
この学説は1961年にヘイフリックが完全否定するまで「不老長寿の欲望」によって支持され続けました。



1903年、伝記によく登場するキュリー夫人は、放射線を発する元素ラジウムを執念で鉱石の中から見つけ、夫とともにノーベル賞を受賞。彼女はラジウムが細胞を破壊することに気づいていたのですが、「がん細胞を殺せる」とポジティブに考え研究を続けました。結果、多くの研究者や作業員が被爆し、彼女自身も放射性被爆による再生不良性貧血で1934年に亡くなっています。



そして、番組昇格1回目のテーマは「ヒーラ細胞」。大学の研究室でよく使用するヒト細胞ヒーラ。これは1951年にがんで亡くなった「ヘンリエッタ・ラックス」という黒人女性のがん細胞を無許可で培養し続けたもので、死後60年にわたって世界中で生き続けているという倫理委員会が卒倒する話し・・・。


コンプライアンスがあやふやだった時代、科学の進歩には必ず人間の弱みにつけ込んだダークサイドが付随しました。
我々はそこにこそ惹かれたのです。
私がフォローする著名人がことごとくダークサイドに堕ちてしまう昨今。尊敬する科学者がダークサイドに足を踏み入れないよう、「フランケンシュタインの誘惑」で予習しようと思った次第です。