あんなこと こんなこと 京からの独り言

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虫垂と中枢

2012年09月30日 | うんちく・小ネタ

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米国デューク大学医学部のパーカー教授は、虫垂(盲腸)の知られざる機能について自身の仮説を発表しました。
とかく邪魔者扱いされ「クジラに残っている後ろ脚の骨のような過去の遺物」と揶揄される虫垂に光を当てたものです。
パーカー教授の説によると、虫垂は腸内善玉菌の「天然の保存庫」として働いているそうで、例えば、コレラなどの重い腸感染症にかかると腸内の善玉菌が激減しますが、虫垂が避難所として機能し、善玉菌を保存しているおかげで健康な状態にいち早く復活するというのです。

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事実、ウィンスロップ大学病院で、クロストリジウム・ディフィシルという菌由来の腸感染症にかかった254人の患者を調べたところ、虫垂のある患者のディフィシル菌再発率が18%だったのに対し、虫垂がない患者では45%にも上ったそうです。
一見つまらない臓器で、炎症を起こすとすぐに切除されてしまう虫垂に立派なバックアップ機能があったことになります。

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話は大きく変わりますが、江戸下屋敷に虫垂のようなバックアップ機能があることを知りました。
江戸時代の参勤交代システムは、大名が国元で1年過ごした翌年に、江戸で1年過ごすという天才的景気向上策。大名行列の衣食住に加え、街道や宿場が整備される2次的効果もすごいものです。
そして、江戸滞在中に大名が暮らす邸宅が上屋敷で、東京事務所的役割が中屋敷。別荘かつ災害時の緊急避難場所的役目を負っていたのが、下屋敷ということになりますから、まさに虫垂です。

本来、地方大名の財政を疲弊させることが目的の参勤交代が、無駄消費の果ての経済効果を生み出したように、無意味そうな虫垂が人類を救うこともあるのですね。

ぶらり江戸下屋敷街歩きを楽しんでみるのも面白そうです。

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農耕の始まりは・・・

2012年09月10日 | うんちく・小ネタ

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いまから1万年前に西アジアで始まった農耕は、人類史上最大の謎とされています。当時栽培していた小麦は成熟すると風で実が飛び散ってしまい、食糧としての収穫がほとんど期待できない品種だったようです(もちろん現代の小麦は風で飛散しません)。なぜわずかな収穫しか得られない小麦で栽培を始めたのか。
それは、収穫量がわずかだから。すなわち貴重品だからという説があるようです。
貴重な小麦を隣の部族に与えて交流を深め、時には発酵してビールを作ったりして部族間の対立を未然に防いだというのです。食糧ではなく、ギフトとしての小麦。
これが農耕の始まりだったといえそうです。

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そう考えると、現代の家庭菜園も、食糧というより癒しのための農耕なのかも知れません。家庭菜園ブームを追い風に、各地で「市民農園」や「体験農園」が増加していて、行政に登録されている市民農園は全国に3596ヶ所もあるそうです。
ちなみに、市民農園は「雑種地」と呼ばれる土地を区画貸しし、借り主が農作業を実施する農園なのですが、近頃では根性のない一般人が農作業をさぼり美観を損ねる事例が多発しているとか。

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そこで、脚光を浴びているのが体験農園。これは、農家が利用者に農作業を指導するカルチャースクールのようなスタイルで、会員が手伝いをしながら会費分の野菜を農家から買うという考え方。
農地法では一般人に農地を貸し出せないので、このような制度ができたとのこと。
ならばもっと活用しようと提唱しているのが、雑誌「農業経営者」編集長の知人の昆吉則。全国の耕作放棄地40万ヘクタールを1区画5アールの体験農園とすれば800万区画でき、年会費5万円で4000億円もの売上げとります。
隣人を思いやることで始まった農耕が、1万年を経て過渡期を迎え、いま、自身を癒す手段として再生しようとしているわけですね。

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