あんなこと こんなこと 京からの独り言

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時代劇

2011年05月23日 | うんちく・小ネタ

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「民放時代劇冬の時代」というコラムを読みました。マンネリ化や制作費の高さが災いして、現在民放で放映中のレギュラー時代劇が「水戸黄門」のみになってしまったとか。

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コラム内に、全盛期とされる1976年5月の民放時代劇一覧表が掲載されていましたが、「子連れ狼」「銭形平次」「必殺仕業人」など、昭和の茶の間で楽しんでいたタイトルが合計14本も並んでいました(再放送含む)。

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    『てなもんや三度笠』
    1962年5月6日~1968年3月31日放映

                                                                   

この激減傾向を歓迎する知人がいました。 日本在住25年のインドネシア人、H氏です。日本文化に精通し、日本語も完璧なH氏ですが、時代劇は言葉も時代背景も全く理解できないらしいのです。

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「拙者、それがし、おぬし等の人称代名詞は日本語学校で習っていません」
「隠密、参勤交代、尊皇攘夷。単語の意味が分かりません」

なるほど、日本人なら小学生でもわかる単語のため、特に劇中の解説なく話が進行してしまいますが、外国人にとって、時代劇は私たちが思っている以上に、ハードルの高い文化なのかもしれません。

かく言う私も、昔の映画を見ていて時代背景が理解しづらいシーンに出くわすことがあります。
1963年公開の「伊豆の踊子」を見て驚きました。学生服姿の高橋英樹が演じる一高生が、踊り子一座に合流し、上げ膳据え膳勝手気ままな温泉旅行の超VIP状態だったのです。

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一高生のブランドはすごかったようです。ヒロイン吉永小百合さんが「一高生と踊り子じゃ釣り合わない」と語るシーンが印象的でした。

川端康成が「伊豆の踊子」を発表した1926年当時のエリートコースは、尋常小学校6年→旧制中学校5年→旧制高校3年→旧制大学4年となります(ほとんどが尋常小学校6年→高等小学校2年で就職)。一高は最難関の旧制高校で、現在の東大教養部。後に東京帝大と合体して現在の東大となっています。

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 「伊豆の踊子」(主演:吉永小百合)ロケを見学する川端康成

                                                                  旧学制には、高等小学校、高等女学校、実業高校、大学予科、高等師範学校などのオプションがあり、さらに戦時下では陸軍士官学校や海軍兵学校がコースに加わります。ここまで整理しないまでも、知っていることだと思っていましたが、H氏に説明を求められた時に、絶対的な自信を持てたかどうか・・。
ちょっと前の歴史を勉強して、一高生がちやほやされる理由が明確になりました。
H氏ではありませんが、教科書で習わない時代は、なかなかストーリーに入り込めないものですね。

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             駒場の一高と生徒の行進


遠鳴り

2011年05月09日 | うんちく・小ネタ

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和食の世界で「高級」とされる店に共通する味の傾向は、「後味」だそうです。
料理を口にした瞬間、素材の旨味が舌先に届き、その後、じわーっとだし感が口中に広がり後味が持続します。
そのためにはいい素材を使い、まろやかな枯節のだしを効かせて薄味に仕上げなければなりません。いい素材も枯節も値が張ります。だからどうしても「高級」 になってしまうのです。
対して、「リーズナブル」な店の傾向は「前味」なのだとか。旨味の弱い素材をカバーするため調味料をがっつり使ってパンチを出し、濃い味付けでだしの弱さをカバー。ジャンクな味ですが、これはこれでおいしいですね。

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楽器の世界でこれに似た傾向をみつけました。

「高価=遠鳴り」である。

月刊「化学」2010年8月号で、バイオリンの名器ストラディバリウスの音の秘密を科学的に解明していたのですが、数十万円と数億円の値の違いは「遠鳴り」の有無に現れるそうです。

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後ろの客席まで十分音が届くのですが、演奏家の耳元ではさほどうるさくなく弾きやすいのだとか。これが遠鳴り。現代の名工が寸分違わぬレプリカを作っても名器の遠鳴りは再現できないので、音の秘密は構造ではなく材料ということになるのでしょう。

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材料は木とニス。平均気温が低く、年輪の詰まった密度の濃い1700年代の木にニスを塗ることで、楽器が劣化することなく半世紀以上かけて徐々に音質が改善されるのだとか。名工と銘木とニスが奏でる数億円の音、時代の音。再現できるはずもありません。

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うーん、サントリーホールの最後列でバイオリンの音が目の前に聴こえるのは、ホールの良さと遠鳴りのおかげだったのか・・。ならば、地方公演の音が物足りないのはホールのせいだけではなく、遠鳴りしない安い楽器を遠征に携えたからか?。
後味と遠鳴り。料理と音楽という異なる世界ではありますが、コストのかけ方において何となく共通するキーワードですね。

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