あんなこと こんなこと 京からの独り言

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二宮尊徳

2012年04月16日 | うんちく・小ネタ

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ケータイを見ながらふらふら自転車をこぐ中高生を見ていたら、小学一年の担任だった先生の言葉を思い出しました。
「薪を背負って勉学に励む二宮金次郎は偉い人ですが、本を読みながら道路を歩くのは危ないからやめましょう」
かつて、ほとんどの小中学校に設置されていた二宮尊徳像ですが、交通安全の観点から撤去が進んでいるそうです。確かに危険ですし、時代にそぐわない苦学のシンボルは生徒の意識改革につながらないのかもしれません。

ならば、授業でしっかりと二宮尊徳の偉業を伝えればいいのでは。

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相模国の農家の長男に生まれた尊徳は早くに両親を亡くしますが、苦学の後、没落した自身の家を二十歳そこそこで再興します。その能力が小田原藩主に買われ、支藩である下野国の農村の建て直しを任され成功。その後、六百余りの農村の復興を手がけ、晩年は幕府の役人に取り立てられていきます。
尊徳は、今で言う「名うてのコンサル」だった訳ですね。

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そのコンサル手法は報徳思想といわれ、根本は「分度」と「推譲」。つまり、人間は一年の衣食がこれで足りるという上限を決めて分度とし、その中で生活して余りは他人に譲るという考え方。尊徳が酒で人の労をねぎらう際、本人の酒量に応じたサイズの杯を選ばせた「分度」のエピソードも合理的でおもしろいです。
もちろん尊徳自身の暮らしも質素だったようですが、身長180センチという巨躯を維持するため、すりつぶした大豆を混ぜた味噌汁である「呉汁」を好んで食べたという記録があります。

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  1_2                                 

                       二宮尊徳の生家

                                                                  こんな尊徳のストーリーが政治的に利用され、修身の教科書や学校の銅像として世に広まっていったわけです。

そして、思いっきり尊徳に感銘を受けてしまった神戸の実業家が1911年に開校したのが報徳学園で、その2代目校長には尊徳の孫、二宮尊親が就任しました。
尊徳像には目もくれず、もちろん報徳も分度も知らず登校していた青き日を反省しつつ、分をわきまえた行動を肝に銘じたこの頃です。

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潮名とは

2012年04月02日 | うんちく・小ネタ

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潮位表などで表示している「潮名」ですが、これは昔から海辺の地域の人々(主に漁師)が潮の具合を言い表すのに使った言葉です。

漁獲量(特に沿岸の漁においては)と潮の状況は密接に関係していますから、潮の状況を的確に捉えることは重要でかつ、あたりまえのことだったのでしょう。
言ってみれば、我々が今日が何曜日かを知っているように、今日の潮、明日の潮の状況を漁師たちは知っているわけです。
この漁師たちにとっての曜日のようなものが「潮名」です。

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ここでよくある誤解が、潮汐の変化は日本全国どこでも大体同じだろうというもの。これが結構困りものです。
潮汐は月や太陽の位置と密接に関係しているのは確かなのですが、潮汐の状況はそれだけで決まるわけではなく、その地域の海底の様子、周囲の海の深さや海峡の広さなど様々な要因で驚くほど大きく変化します。

つまり漁師たちが使う潮名は、その地域独特のもので、日本全国一律に使えるものでは無いのです。
 

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大潮や小潮に関しては、その周期中でもっとも一日の潮位差が大きい日、小さい日と言うことなので、数値的にも示すことが出来ます(そのため、潮汐学的にもはっきりと定義出来るものです)。が、若潮とは、長潮とは・・・と問われると、言い習わされた場所毎に日付も、あるいはその言葉自体が指す意味も違っていることがあって、一律にいつが「若潮か」と決められません。困りましたね。

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                            潮位表

                                                                    

◇潮名とはどうやって決められるのか?
潮名については地域ごとにきめ細かく決めるというのが理想でしょうが、なかなかそうもいきません。そうなると、あとは

  呼び名とその平均的な状況

を見つけてそれを何時にするかということを考えるしか有りません。
細かな差には目をつむって、大体の目安を示すというわけです。
さらにこれを何らかの方法で「計算値」と結びつける必要がありますが元々がそれぞれの地域に住む方々が経験的に決定していた名前ですので、使っている方に、「どうやって計算しましたか」と尋ねたところで無駄。

仕方なく、現象からその現象に近い状況の関連する指標でこれを表すことになります。そして主に使われるのが、月と太陽の黄経差。平たく言えば月の満ち欠けの具合です。

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                                       潮位解析データ

                                                                  この方式をとったのが、最初に採り上げた「潮位表」など。この潮位表は気象庁の潮汐参考資料でその黄経差を定めています。
同じようにこの黄経差を用いて情報を提供しているのが、財団法人日本水路協会海洋情報研究センター(MIRC)です。

これに対して、昔の人はこの潮名を旧暦の日付と結びつけて呼んでいたということ(これも、月の満ち欠けの様子を表します)から、定義付けしたのが旧暦日。
それで決めていたものならそれに合わせる方が伝統的なものというのがこれらの考えです。
(ただ、旧暦日そのままではなくて、便宜的に月齢を当てはめます)

気象庁方式にせよ、MIRC方式にせよ、旧暦方式にせよ、考え方自体は同じなのですが、それぞれの呼び名の区切りをどうするかで、

   微妙に違う

結果となります。
ですからどれが正しく、どれが間違っているとはなかなか言えません。まあ、あくまでも目安として使って下さいとしか言えないのです。

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◇潮名の定義について
潮名は元々が各地で経験的に決められたものなので、それをあつめて定義を作っても、その定義にはこれを決めた人の考え方が出てしまって一義には定められません。こうした曖昧模糊とした定義でも、この先統一された見解にはならないと思います。漁師は漁師が受け継いでいく「経験と判断」こそが、漁なのですから・・・。

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