あんなこと こんなこと 京からの独り言

「京のほけん屋」が
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ある映画に込められたメタファー

2016年11月20日 | うんちく・小ネタ




地下に埋めた放射性廃棄物を10万年後の人類が「発掘」すると想定した場合、その危険性をどう伝えるかという命題があります。
現代の言語が通じるのか、どくろマークを見て危険性を認識できるのか、10万年後の人類の知的レベルなどまったく想像がつかないのです。





動物に対してこれと同様の思いを抱いているのが霊長類学者ドゥ・ヴァールで、新刊のタイトルは「動物がどれくらい賢いかわかるほど人間は賢いか?」。
ドゥ・ヴァールはこう書いています。


「動物の知能レベルを解明しようとするなら、まず対象の動物とその自然誌のあらゆる側面に精通する必要がある」

「そして、われわれ人間が得意とする能力で動物をテストするのではなく、その動物の特技で評価すべきだろう」。

たしかに、コウモリやイルカの超音波認識力は人間にはないものですし、リスの生活にとって数を数えることが大して重要でないなら、リスが10まで数えられるかどうかを問うのは極めてアンフェアなのです。




ドゥ・ヴァールは、オランダのブルヘルス動物園の25匹のチンパンジーに関する逸話を紹介しています。
ここのチンパンジーは隣の島に行けるよう放し飼いにされているそうです。
ある朝、ドゥ・ヴァールらはグレープフルーツを山盛りにした木箱を、チンパンジーたちのそばを通って島に運び込んだとか。
しかし、予想に反してその時点で彼らはグレープフルーツを無視したのです。
次に、研究チームがグレープフルーツを島に隠し、空っぽの木箱を抱えて戻った時、それを見たチンパンジーは跳ね回り、大声を上げ、興奮して背中を叩きあったそうです。

「木箱が空ということは、島に行けばグレープフルーツが食べ放題だぞ!」

まだ続きがあります。チンパンジーの群れが島に着いた時、数個のグレープフルーツが砂からのぞいている場所を素通り。
見落としたのかと思いきや、1匹の順位の低いオスが、仲間が昼寝をしているすきに砂浜のグレープフルーツを取りに来たのだそうです。




すごい、強者の横取りをかわす賢さ。
ふと、映画「猿の惑星」を思い出しました。
10万年後に放射性廃棄物を発掘するのは、人間を支配するチンパンジーではないのか・・・。
人間が一番賢いというおごりは、改めなければならないので・・す。





COOL

2016年11月06日 | うんちく・小ネタ



スタジオに日本在住の外国人を招き、意外と知られていない「かっこいいニッポン」を発掘する番組があります。
過日のテーマは「和製料理」。ナポリタンのように日本で独自の進化を遂げた世界の料理を、各国の外国人7人が持ち寄る企画。

オムライス、カレーライス、ハンバーグ、天津飯、焼きギョーザ、ショートケーキ等が紹介されていました。
えっ、ハンバーグってアメリカにないの?  ・・・ハンバーガーはあっても、ハンバーグが単独で出てくる料理はないそうです。




そして、イチゴショートは7人全員が「COOL!」。食後に食べても胃もたれしない、甘味あっさりでふわふわスポンジのケーキは日本にしかないのです。



ふと、石原裕次郎主演の日活映画、「太平洋ひとりぼっち」(1963年公開)を思い出しました。小型ヨット「マーメイド号」による太平洋単独航海を成功させた、堀江謙一氏の同名航海記を映画化した作品です。
映画の中で、裕次郎さんが備蓄の食糧を利用して、ショートケーキもどきを作るシーンがあるのです。
砂糖、バター、クリープをマグカップの中で混ぜた後、スプーンですくって食べ「本物のショートケーキが食べたい」とつぶやきます。
この「もどき」、けっこう本物の配合に近いのです。当時全盛だったバタークリームのショートケーキなら、足りないのはスポンジ部分の小麦粉と卵ぐらい。
胸焼けしそうなバターが、裕次郎さんの熱いイメージにぴったりの名シーンでした。



元来、発祥であるアメリカのショートケーキはスポンジ部分がビスケットであり、このビスケットにショートニング(食用油脂)が練り込まれていることが語源という説もあります。
大正時代に日本に伝搬した元祖ショートケーキは、菓子メーカー不二家の手で日本風にアレンジされ、スポンジタイプで世に広まりました。
そして、バタークリームが生クリームになり、甘さも固さも控えめになったのです。
今の軟弱日本を象徴するようなショートケーキ、ギラギラした裕次郎さんが食べたら「COOL!」と言ってもらえるでしょうか。
そんな妄想にふける一日となりました。