透明タペストリー

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「カーブの向う・ユープケッチャ」を読む

2024-04-14 | A 読書日記

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 安部公房の『カーブの向う・ユープケッチャ』(新潮文庫1988年12月5日発行、1993年2月15日4刷)を読んだ。

収録作品の『カーブの向う』は『燃えつきた地図』の原型、『ユープケッチャ』は『方舟さくら丸』の原型、『チチンデラ  ヤパナ』は『砂の女』の原型となった短編。このように収録されている9編中3編が安部公房の代表作の原型作品であるのにもかかわらず、この文庫は現在絶版。なんとも残念。

『砂の女』の原型となった短編のタイトルのチチンデラ  ヤパナって一体何? ネットで調べるとニワハンミョウという昆虫のことで、体長10~13mm。河川敷や海岸、畑地などの砂地に生息しているということが分かった。なるほど砂地か・・・。

『砂の女』には火の見櫓が出てくる。『チチンデラ  ヤパナ』にも出てくるかもしれないな、と思いながら読み始めた。**とつぜん視界が開いて、小さな集落があらわれた。高い火の見櫓を中心に、小石でおさえた板ぶきの屋根が不規則にかたまった、貧しいありふれた村落である。**(126頁)やはり出てきた。

『手段』は駅の改札口の近くに設置されている「簡易交通障害保険自動販売機」にまつわる物語。主人公の男がこの自販機が扱う保険に詳しいという老人に声をかけられる。で、男は娘の修学旅行の費用が必要だと、老人に話すことに。保険の約款には怪我の部位、程度によって支払われる保険金が異なること、そして、それぞれの保険金額が示されている。

駅のホームに電車が進入してきて、男は・・・。星 新一も扱いそうなテーマだけど、だいぶテイストが違う。

『完全映画』この作品が「SFマガジン」に発表載されたのは1960年(昭和35年)のこと。予見的な作品。

『子供部屋』 **壁のコンクリートに這わせてあった水道管から、水もれがしはじめたんですよ。しだいに地下室が水びたしになりはじめる。やむなく、子供たちを隅の箱にかくして、水道屋を呼ばざるを得ませんでした。ところが子供たちが、箱の隙間から、工事人夫が作業をしている所を見てしまったんですね。**(212頁)

なんだか、『箱男』を思わせるこの描写。この作品が「新潮」に発表されたのは1968年(昭和43年)のことだった。で、『箱男』の発表が1973年(昭和48年)。この頃から『箱男』をイメージしていたのかもしれない・・・。

密度の高い作品集。繰り返す、絶版は残念。


手元にある安部公房の作品リスト(新潮文庫22冊 文庫発行順 戯曲作品は手元にない。2024年3月以降に再読した作品を赤色表示する。*印は絶版と思われる作品)

年内に読み終える、という計画でスタートした安部公房作品再読。4月14日現在6冊読了。残りは16冊。3月に出た『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』(新潮文庫)を加えたとして17冊。5月から12月まで、8カ月。2冊/月でほぼ読了できる。少しペースダウンして他の作家の作品も読もう。


『他人の顔』1968年12月
『壁』1969年5月
『けものたちは故郷をめざす』1970年5月
『飢餓同盟』1970年9月
『第四間氷期』1970年11月

『水中都市・デンドロカカリヤ』1973年7月
『無関係な死・時の壁』1974年5月
『R62号の発明・鉛の卵』1974年8月
『石の眼』1975年1月*
『終りし道の標べに』1975年8月*

『人間そっくり』1976年4月
『夢の逃亡』1977年10月*
『燃えつきた地図』1980年1月
『砂の女』1981年2月
『箱男』1982年10月

『密会』1983年5月
『笑う月』1984年7月
『カーブの向う・ユープケッチャ』1988年12月*
『方舟さくら丸』1990年10月
『死に急ぐ鯨たち』1991年1月*

『カンガルー・ノート』1995年2月
『飛ぶ男』2024年3月