透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「花散らしの雨」高田 郁

2017-03-10 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫
「八朔の雪」
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



■ 第2巻『花散らしの雨』を読み終えた。

巻頭に主人公の澪が働くつる屋やお芳さんと共に暮らす長屋、澪がお参りをする化け物稲荷、登龍楼などが載る地図が付いている。位置関係が分かって便利だ。

第1巻ではいくつかの出来事に涙したが、この第2巻でも同様だった。やはりいくつかの出来事に涙した。

神田御神田台所町、明神の近くにあったつる屋は付け火で焼けてしまい、九段坂下の二階家で商売を再開している。店は忙しく、口入れ屋の紹介で下足番として雇ったのがふきという名前の少女だった。それからしばらくして、登龍楼に料理を真似されるということがあった。まずは、澪が考えた献立情報が流失するというこの「事件」。

**登龍楼がつる屋に先んじて、同じ献立を客に提供するためには、試作の段階の澪の料理を正しく把握していなければ無理だ。澪の使う食材、調理法を正確に伝え、逸早くそれらの情報を登龍楼に流すことの出来る者。それができるのはつる屋のなかではひとりきり。唯ひとりきりなのだ。**(48頁)

**「つる屋の料理を真似るだけでは済まんと、まだ十三の子ぉに、隠密みたいな真似させて。(後略)**(72頁)これが事件の真相だった。

それから、澪の幼馴染みの野江が吉原の翁屋であさひ太夫という名の遊女に身を落としているということ、その野江が遊女をかばって客に右腕を斬られたこと。そして、偶然にも澪の知り合いの町医者、源斎が野江の治療をしていることを澪は知る。

**「あんたに太夫を逢わせるわけにはいかねぇが、太夫には一目、一目だけでも、あんたを見せてやりてぇ」**(140頁)と翁屋の料理番の又次。澪は又次の手引きで野江(あさひ太夫)と・・・。

**「二階の隅の窓だ。何も聞かず、そこを見ていてくんな。障子があるから、あんたから太夫は見えねえ。ただ、太夫にあんたを見せたいだけなんだ」**(141頁)

**澪は、咄嗟に右の指を狐の形に結んだ。そして、野江の居るだろう二階座敷へ向けて、その手を差し伸べる。(中略)障子の隙間から、そっと白い腕が差し出された。夜目にも真っ白な細い女の左腕。その手の先が狐の形に結ばれる。(後略)**(145頁)これが澪と同じく水害で天涯孤独となった幼馴染みの野江との「再会」だった。

私はこの場面が第2巻のクライマックスだと思う。このなんとも切ない再会に泣いた。

他にも、同じ長屋住まいのおりょうさんと息子の太一が麻疹に罹ったり、澪が小松原に淡い恋心を抱いていることが分かったりと2巻も中身の濃い物語だった。

次は第3巻「想い雲」だ。