透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「今朝の春」 高田 郁

2017-03-12 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫
「八朔の雪」
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」



 みをつくし料理帖 第4巻「今朝の春」を読み終えた。高田 郁さんの作品を読むのは初めてだが、ようやく文体にも慣れて読みやすくなった。

この巻で澪と同じ長屋で暮らすおりょうの旦那、伊佐三の浮気騒動が起きる。

**「伊佐三さん、私もこの歳だす。男と女が割りない仲になり、堕ちていくんも、よう見聞きしてます。お前はんとお牧いうひともそうなんか、と。けど、子盗りの一件で、もしかしたらそれは違うかもしれん、と思うたんだす。割りない仲なら、子はむしろ邪魔なはず」**(202頁)とお芳さん。

鋭いお芳さんは伊佐三の浮気騒動には裏があると見抜き、**「若い娘と割りない仲になった、と周りに思わせておいて、お前はんは何ぞほかに、隠しておきたいことがあったんやないか、と」**(202頁)と続ける。

その後、ことの真相が分かるのだが、それでまた涙。これは私好みの涙小説だ。真相については、子を思う親の気持ちから出たこと、とだけ記しておく。

この巻でも大きな出来事が起きる。それはつる屋と登龍楼との料理対決。

ある日、料理番付の版元の使用人がつる屋を訪ねてくる。**「この度は、登龍楼さんとつる屋さんとで、料理の競い合いをお願いしたく、こうしてお訪ねしました」**(218頁)

**「うちの番付で大関を取る、というのは即ち、江戸一番の証。ここ数年は登龍楼の独壇場だったのですが、今年は票が割れて割れて。(中略)決着を見ないままなのです」**(219頁)というのがその理由。料理対決は同じ食材を使った料理を三日間提供して、行司役たちが密かに二軒の店を巡り、料理を食べ比べて優劣を決めるというものだった。

対決の結果は・・・?

それから、澪の幼馴染みの野江がなぜ吉原にいるのか、その訳も明らかになる。

**「水害で記憶を無くして自分が何処の誰かもわからねぇ、そんな小せぇ子を手前は御助け小屋から連れ出して、吉原へ売り飛ばしやがった。旭日昇天てぇ触れ込みでな」**(123頁)「江戸へ向かう道中、手前は散々、嘘の話をその子に吹き込みやがった。そうして無くした記憶の分を手前の嘘で埋めた。(後略)」**(124頁) 野江がいる吉原翁屋の料理人の又次が男に迫る。

それから、澪と野江の今後をおそらく暗示するこんな言葉が常連客の戯作者、清右衛門から出る。**「お前がその身請け銭の四千両を用意して、あさひ太夫を吉原から出してやれ」**(143頁)

もう、先が気になって、気になって・・・。第5巻「小夜しぐれ」を読む。