透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

分散コアシステム

2006-10-14 | A あれこれ


「新建築」6704(1967年4月号)より

■ 先日行なわれた、塩尻市の「市民交流センター」の公開審査については既に書いた。一次審査を通過した5案の内、2案がいわゆる「分散コアシステム」を採用していた。構造システムとしてだけでなく、空間的にもコアに重要な意味を持たせていたところが、両案に共通していた。
因みに当選案は「分散壁柱システム」とでも呼称されようか。

この分散コアシステム、「せんだいメディアテーク」をすぐに想起するが、私の記憶はさらに「山梨文化会館 /丹下健三+都市建築設計研究所」に繋がっている。甲府駅に隣接するこの建築は手元の古い「新建築」によると1966年11月に竣工している。いまから40年!も前のプロジェクトだ。

雑誌からこの「山梨」の計画に関する解説文を引用する。
**ここでわれわれが採用したのは、(中略)分散コアともよばれるシステムである。全体のブロック配置、スパン割りなどから15.290m×17.375mのグリッドが設定され、各格子の接点に、直径約5mの円筒コアを配置している。このコアは3本の階段シャフト、2本のエレベーターシャフト、2本の荷物用エレベーターシャフト、3本の便所、給排水シャフト、6本の空調機械室、設備配管シャフト、計16本のシャフトよりなっている。(中略)構造的にも、各スペースのフレキシビリティの要求からきた17mのスパン架構を支える中核体としてきわめて有効に働いている。**
構造シャフトの内部をこのように使うという発想は「せんだい」でも同じだ。

以下『せんだいメディアテーク コンセプトブック』NTT出版からの引用。

**このチューブは床を支える役目、つまり柱として働いているだけではなく、さまざまな役割を果たしています。(中略)エレベーターや階段はなかに収められ、人がこのなかに入ることができます。また、空調や電気、ネットワークの配管を収め、火災時には排煙の経路にもなります。チューブは全体を支えると同時に、さまざまなエネルギーや情報を建物全体に供給する樹の幹のような役割を果たしているのです。**

実によく似ている。説明文を入れ替えても分からないくらいだ。既に40年も前のプロジェクトでコアシステムを採用した計画がなされていたのだ。雑誌には構造に関する説明も載っているが図表は全て手書きだ。

この分散コアシステムのアイディアは磯崎さんによるものだと、むかし聞いたことがあるような気がするが、磯崎さんは1961年に大学院を修了し、1963年には既にアトリエを設立しているから、このプロジェクトに関わったのかどうかは分からない。

「せんだい」のコンペの審査委員長は磯崎さんだった。自分の昔のアイディアを思い出した?
まさかね。

学生の頃、この「山梨文化会館」を見学に行った。受付で渡された黄色い腕章をつけて内部を見て回ったものだ。このプロジェクトが掲載されている「新建築」はずっと後年(雑誌の発行年、1967年には生まれてはいたがまだ小さかった!?)、南洋堂(東京神田の建築書専門店)で買い求めたもの、手元にある建築関係の一番古い雑誌だ。

「せんだい」はすごい建築だと思う。
「山梨文化会館」も当時の建築デザインの状況を考えるとすごい!と思う。そして美しいと思う。「山梨」の美しさをどう説明したらいいだろう・・・。 


 


「冬の水練」 南木佳士

2006-10-14 | A 読書日記



文春文庫の今月の新刊広告に南木佳士の名前を見つけた。
南木さんの本はとにかく読む。

うつという心の病を抱えながら静かに暮らしている著者が、休日の早朝、暗いうちから起き出して、書き溜めたというエッセイが収録されている。一冊にまとまる分量になるまでに三年かかったそうだ。

**メランコリーを好む性格だから、創りあげた秩序のなかに安住しているのがいちばん薬だとは分かっていても、出来事は上から、うしろから、そして内側からも勝手に起こってくる。** 文庫版あとがきに著者はこう書いているが、私の場合もまったくその通り。

**私はよい医者にはなれないまま終わりそうだ。**と、エッセイの一文が帯に採られているが、私には南木さんは名医、彼の「薬」は欠かせない。


繰り返しの美学

2006-10-14 | B 繰り返しの美学



以前担当した保育園の廊下

■ 繰り返しの美学
主構造は鉄骨だが、間仕切り壁を木造にした。
いろいろな平面計画を練って提案したが結局保育室が直線的に並ぶオーソドックスな片廊下型になった。等間隔に建てた柱から廊下と保育室内に方杖を出した。ちょうど、♪YMCAと踊るときのYのように。

壁には土佐漆喰を使いやすくアレンジして商品化された左官材を使った。左官材に詳しい友人に教わったものだ。自然素材をふんだんに使って、と打ち合わせの段階では考えるのだが、予算の関係で・・・などと言い訳をして相手だけでなく自分を納得させて結局ビニルクロスに落ち着いてしまうことが多い。小さな子供たちが使う空間がそれではな~と最後まで素材にこだわった。

四角い窓の下に小さなガラスタイルを2枚ずつ貼った。取り寄せたサンプル帳を処分するのが「もったいなくて」一枚一枚自分で剥がして使ってもらった。

廊下の天井がそれ程高くないので方杖の効果がいまひとつ、だったかなと今ごろ反省。

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■ 幼保一元化
今年の6月に「認定こども園設置法」という法律が成立し、10月1日に施行された。就学前の子どもに「教育と保育の一元的提供」と「子育て支援」の機能を備える新たなサービスを提供する、ということだそうだ。いままで全く知らなかった。

このことについて、こんなサイトを見つけた。
http://allabout.co.jp/finance/ikujimoney/closeup/CU20070701A/

女性の意見がいくつか紹介されている。
この中に紹介されている「ケンちゃんの卒論」(4ページ目)も一読を。「子育て優先か、自己実現優先か」特に女性たちの選択は難しい。そして小さな子供たちの育つ環境は今後よりいっそう厳しくなる、と私は思う。
このことについてここにコメントするつもりはない、サイトの紹介のみに留めておく。