歌番号一二六五
原文 止毛多知尓者部利个留於无奈乃止之比左之久多乃三天
者部利个留於止己尓止者礼寸者部利个礼八毛呂止毛尓奈个幾天
読下 友だちに侍りける女の、年久しく頼みて
侍りける男に訪はれず侍りければ、もとろもに嘆きて
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 加久者可利和可礼乃也寸幾与乃奈可尓川祢止多乃女留和礼曽者可那幾
和歌 かくはかり わかれのやすき よのなかに つねとたのめる われそはかなき
読下 かくばかり別れのやすき世の中に常と頼める我ぞはかなき
解釈 これほどに別れやすい男女の仲なのに、常、久しくあの人の愛情は変わらないと信頼していた、その私がばかだったのですね。
歌番号一二六六
原文 徒祢尓奈幾奈多知者部利个礼八
読下 常になき名立ち侍はりければ
原文 以世
読下 伊勢
原文 知里尓堂川和可奈幾与女无毛々之幾乃飛止乃己々呂遠万久良止毛可奈
和歌 ちりにたつ わかなきよめむ ももしきの ひとのこころを まくらともかな
読下 塵に立つ我が名清めん百敷の人の心を巻くらともがな
解釈 塵が風に舞い立つように、簡単に立つ噂話での私の名前、それを、殿上の塵を清めるように宮中の人々の心から取り去りたいものです。
注意 末句「まくら」は三句目の「ももしき」の縁語として「枕」の意味合いもありますが、それでは意味が取り難いです。逆に古今和歌集「知るといへば枕だにせで寝しものを塵ならぬ名の空に立つらむ」を知っていて、「まくら」を「枕」とわざと解釈させない技法のようです。
歌番号一二六七
原文 安多奈留奈多知天以比左者可礼个留己呂安留
於止己保乃可尓幾々天安者礼以可尓曽止々比
者部利个礼者
読下 あだなる名立ちて言ひ騒がれけるころ、ある
男ほのかに聞きて、あはれ、いかにぞ、と問ひ
侍りければ
原文 己万知可武万己
読下 こまちかむまこ(小町孫)
原文 宇幾己止遠志乃不留安女乃志多尓之天和可奴礼幾奴者本世止加者可寸
和歌 うきことを しのふるあめの したにして わかぬれきぬは ほせとかわかす
読下 憂き事をしのぶる雨の下にして我が濡衣は干せど乾かず
解釈 有りもしない噂話で気が晴れない気持ちを辛抱している、この空が晴れない雨の下で、私の濡れ衣は、いくら干しても乾きません。
歌番号一二六八
原文 止奈利奈利个留己止遠加利天加部寸川以天尓
読下 隣なりける琴を借りて、返すついでに
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 安不己止乃加多美乃己恵乃堂可个礼者和可奈久祢止毛飛止者幾可奈无
和歌 あふことの かたみのこゑの たかけれは わかなくねとも ひとはきかなむ
読下 逢ふ事のかたみの声の高ければ我が薙ぐ音とも人は聞かなん
解釈 貴女に逢うことが難しい、その言葉の響きではありませんが、音調を合わせることが難しいこの琴の音色が高いなら、私が弦を引いて鳴らす音を隣に住む貴女は聴くでしょうか、(また、貴女に逢えない恋の苦しみに泣く私の泣き声を貴女に聞いてもらいたいものです)
歌番号一二六九
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 奈良美多乃美志留見乃宇佐毛加多留部久奈計久己々呂遠万久良尓毛可奈
和歌 なみたのみ しるみのうさも かたるへく なけくこころを まくらにもかな
読下 涙のみ知る身の憂さも語るべく嘆く心を枕にもがな
解釈 あの歌々のように、涙だけが知っている我が身の憂さも語らい合えるように、貴方に抱かれて嘆いている気持ちを閨の中で共にしたいものです。
注意 古今和歌集「世の中はうきもつらきも告げなくにまづ知るものは涙なりけり」と、「我が恋は人知るらめやしきたへの枕のみこそ知らば知るらめ」を引用する。
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