後撰和歌集 現代語訳 原文付 巻19
原文 止遠末利己々乃末幾仁安多留未幾
読下 巻十九
原文 加礼加礼乃宇多 堂比乃宇多
読下 離別歌(附 羈旅歌)
歌番号一三〇四
原文 美知乃久尓部満可利个留飛止尓比宇知遠徒可者春
止天加幾川計者部利遣流
読下 陸奥へまかりける人に、火打ちをつかはす
とて、書きつけ侍りける
原文 従良由幾
読下 貫之(紀貫之)
原文 於里/\尓宇知天堂久比乃个不利安良者己々呂左寸可遠志乃部止曽於毛不
和歌 をりをりに うちてたくひの けふりあらは こころさすかを しのへとそおもふ
読下 折々に打ちて焚く火の煙あらば心ざす香をしのべとぞ思ふ
解釈 これを使う機会の折々に、この燧を撃ち叩き焚く火の煙が立ったなら、私がこれを選ぶときの心を込めた気分を、貴方に感じて貰いたいものです。
歌番号一三〇五
原文 安比之利天者部利个留飛止乃安徒万乃可多部満可利个留
尓佐久良乃者奈乃加多尓奴左遠之天川可八之个累
読下 あひ知りて侍りける人の東の方へまかりける
に、桜の花の形に幣をしてつかはしける
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 安多飛止乃堂武計尓於礼留佐久良者奈安不左可万天者知良寸毛安良奈无
和歌 あたひとの たむけにをれる さくらはな あふさかまては ちらすもあらなむ
読下 あだ人の手向けに折れる桜花相坂までは散らずもあらなん
解釈 浮気癖の貴方への旅立ちの手向けとして折った桜の花です、いくら貴方があだ人のあだ、その言葉の響きではありませんが、かりそめでも、貴方が越えて行く相坂の関までは、さすがに散らないで欲しいと思っています。
歌番号一三〇六
原文 止遠久満可利个留飛止尓武万乃者奈武計之者部利个留止己呂尓天
読下 遠くまかりける人に餞し侍りける所にて
原文 多知八奈乃奈保止毛
読下 橘直幹
原文 於毛比也留己々呂者可利者左波良之遠奈尓部多川良无美祢乃之良久毛
和歌 おもひやる こころはかりは さはらしを なにへたつらむ みねのしらくも
読下 思ひやる心ばかりは障らじを何隔つらん峯の白雲
解釈 遠くに出かけて行く貴方に想いを馳せる気持ちだけなら差し障りはないと思うのに、どうして、貴方との仲を隔てるのでしょうか、そのように沸き立つ行く手に見える峯の白雲です。
歌番号一三〇七
原文 志毛川个尓満可利个留於无奈尓加々美尓曽部天
徒可者之遣流
読下 下野にまかりける女に、鏡に添へて
つかはしける
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 布多己也末止毛尓己衣祢止万寸可々美曽己奈留可个遠多久部天曽也留
和歌 ふたみやま ともにこえねと ますかかみ そこなるかけを たくへてそやる
読下 二子山ともに越えねどます鏡そこなる影をたぐへてぞやる
解釈 下野の二子山を貴女と共に越えて行くことは出来ませんが、まず、くっきり影を映すこの鏡、そこに映る私の姿を旅の友として添えて贈ります。
歌番号一三〇八
原文 之奈乃部満可利个留飛止尓多幾毛乃川可者寸止天
読下 信濃へまかりける人に、焚き物つかはすとて
原文 春留可
読下 するか(駿河)
原文 志奈乃奈留安佐万乃也末毛々由奈礼者布之乃个不利乃可比也奈可良无
和歌 しなのなる あさまのやまも もゆなれは ふしのけふりの かひやなからむ
読下 信濃なる浅間の山も燃ゆなれば富士の煙のかひやなからん
解釈 貴方が下って行く、その信濃国にある浅間山も噴火で燃えていると言うことなので、有名な駿河の富士の煙ではありませんが、ここに贈る香の焚き物の煙では珍しくも無いでしょうね。