歌番号一二八〇
原文 安波多乃以部尓天飛止尓川可八之个留
読下 粟田の家にて人につかはしける
原文 加祢寸个乃安曾无
読下 かねすけの朝臣(藤原兼輔)
原文 安之比幾乃也末乃也万止利加比毛奈之美祢乃之良久毛多知之与良祢八
和歌 あしひきの やまのやまとり かひもなし みねのしらくも たちしよらねは
読下 あしひきの山の山鳥かひもなし峯の白雲立ちし寄らねば
解釈 あの「あしひきの山鳥」の歌ではありませんが、「やまとり」の言葉の言葉の響きのような「山宿り」をしても甲斐がありません、峯に白雲が夜になっても吹き寄って来ませんから、(風情が残念です。)
注意 万葉集「あしひきの山鳥の尾のしたり尾の長々し夜を独りかも寝む」を引用する。なお、二句目「やまのやまとり」を「やまのやとりの」とる諸本があります。
歌番号一二八一
原文 比多利乃於本以万宇知幾三乃以部尓天加礼己礼堂為遠左久利天
宇多与美个留尓川由止以不毛之遠衣者部利天
読下 左大臣の家にて、かれこれ題を探りて
歌よみけるに、露といふ文字を得侍りて
原文 布知八良乃多々久尓
読下 ふちはらのたたくに(藤原忠国)
原文 和礼奈良奴久左波毛々乃者於毛比个利曽天与利保可尓遠个留之良川由
和歌 われならぬ くさはもものは おもひけり そてよりほかに おけるしらつゆ
読下 我ならぬ草葉も物は思けり袖より外に置ける白露
解釈 私だけでなく、草や葉も和歌のお題の回答に苦労していたのですね、私は和歌の生みの苦しみに涙で袖を濡らし、それとは別に草や葉も涙のように置ける白露を見せています。
歌番号一二八二
原文 飛止乃毛止尓徒可者之个留
読下 人のもとにつかはしける
原文 以世
読下 伊勢
原文 飛止己々呂安良之乃加世乃左武个礼者己乃女毛美衣寸衣多曽志本留々
和歌 ひとこころ あらしのかせの さむけれは このめもみえす えたそしをるる
読下 人心嵐の風の寒ければ木の芽も見えず枝ぞしほるる
解釈 貴方のお気持ちは山から吹き下ろす嵐の風のように寒々としているので、山の木の芽も見えず、枝も萎れる、そのように私の貴方への好ましいと思う心は見えず、慕う気持ちも萎れています。
歌番号一二八三
原文 己止飛止遠安比可多良不止幾々天川可八之个留
読下 異人をあひ語らふ、と聞きてつかはしける
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 宇幾奈可良飛止遠和寸礼武己止可多三和可己々呂己曽加八良左利个礼
和歌 うきなから ひとをわすれむ ことかたみ わかこころこそ かはらさりけれ
読下 憂きながら人を忘れむ事かたみ我が心こそ変らざりけれ
解釈 (貴女に別な恋人が出来たと聞いて、)本当に辛いことなのですが、貴女のことを忘れようとすることが難しいのです、それで私の貴女への恋焦がれる気持ちだけは、いまも変わってはいませんのに。(でも、貴女は心変わりしたのですよね。)
歌番号一二八四
原文 安留保宇之乃美奈毛止乃比止之乃安曾无乃以部尓
万可利天寸々乃寸可利遠於止之遠个留遠安之多尓
遠久留止天
読下 ある法師の、源の等の朝臣の家にまかりて、
数珠のすがりを落としをけるを、朝に
贈るとて
原文 美奈毛堂乃比止之乃安曾无
読下 源のひとしの朝臣(源等)
原文 宇多々祢乃止己尓止万礼留之良多万八幾び可遠幾个留川由尓也安留良无
和歌 うたたねの とこにとまれる しらたまは きみかおきける つゆにやあるらむ
読下 うたたねの床にとまれる白玉は君が置きける露にやあるらん
解釈 うたたねの寝床に置き留まっている白玉は、それは貴方が床から起き、置いた露なのでしょうか。