歌番号一二七五
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 以世
読下 伊勢
原文 美乃宇幾遠志礼者々之多尓奈利奴部美於毛部八武祢乃己可礼乃三寸留
和歌 みのうきを しれははしたに なりぬへみ おもひはむねの こかれのみする
読下 身の憂きを知ればはしたになりぬべみ思ひは胸の焦がれのみする
解釈 恋した後の我が身の辛い気持ちを知っているので、中途半端になってしまいそうと躊躇する気持ちからは、ただ、己の胸の内で恋焦がれる思いを抱くだけです。
歌番号一二七六
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 久毛知遠毛志良奴和礼左部毛呂己恵尓个不者可利止曽奈幾加部利奴留
和歌 くもちをも しらぬわれさへ もろこゑに けふはかりとそ なきかへりぬる
読下 雲路をも知らぬ我さへもろ声に今日はかりとぞ泣きかへりぬる
解釈 恋路も鳥が通う雲路さえもしらない私でも、雁と一緒に声を合わせて、今日は仮そめ、今日は仮そめ、とばかりにひどく泣いて暮らしています。
歌番号一二七七
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 満多幾加良於毛比己幾以呂尓曽女武止也和可武良左幾乃祢遠多川奴良无
和歌 またきから おもひこきいろに そめむとや わかむらさきの ねをたつぬらむ
読下 まだきから思ひ濃き色に染めむとや若紫の根を尋ぬらん
解釈 こんなに早くから、恋人の心を自分の思いからの恋の色に染めようと、あの若い娘との伝手を探しているのですか。
歌番号一二七八
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 以世
読下 伊勢
原文 美衣毛世奴布可幾己々呂遠加多利天八飛止尓加知奴止於毛不毛乃可八
和歌 みえもせぬ ふかきこころを かたりては ひとにかちぬと おもふものかは
読下 見えもせぬ深き心を語りては人に勝ちぬと思ふものかは
解釈 私が気付きもしないような貴方の私への深い愛情の心を語っても、他の男の恋の告白に勝っているとは思いませんよ。(はっきり、気付くように恋の告白をしてください。)
歌番号一二七九
原文 天為之為无尓左不良比个留尓於保武止幾乃於呂之
多末者世多利个礼者
読下 亭子院にさぶらひけるに、御斎の下し
たまはせたりければ
原文 以世
読下 伊勢
原文 以世乃宇美尓止之部天寸美之安万奈礼止加々留美留女者可部留左利之遠
和歌 いせのうみに としへてすみし あまなれと かかるみるめは かつかさりしを
読下 伊勢の海に年経て住みし海人なれどかかるみるめはかづかざりしを
解釈 伊勢の海に長年に渡って住む海人、その言葉の響きではありませんが、この私、伊勢は長年生きて来ました尼ですので、海松布(みるめ)の言葉の響きではありませんが、このような豪華な饗宴に相伴したことはありませんでした。