竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
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万葉集 集歌3990から集歌3994まで

2022年12月28日 | 新訓 万葉集
集歌3990 和加勢故波 多麻尓母我毛奈 手尓麻伎氏 見都追由可牟乎 於吉氏伊加婆乎思
訓読 我が背子は玉にもがもな手に巻きて見つつ行かむを置きて行かば惜し
私訳 私の大切な貴方が玉であったら手に巻いて、常に見ながら行くのですが、貴方をここに置いて行くのが残念です。
右、守大伴宿祢家持、以正税帳須入京師、仍作此謌、聊陳相別之嘆  四月廿日
左注 右は、守大伴宿祢家持、正税帳をもちて京師に入らむとし、仍りて此の謌を作り、聊(いささ)かに相別るる嘆きを陳(の)べたり。 四月廿日

遊覧布勢水海賦一首并短謌  此海者、有射水郡舊江村也
標訓 布勢(ふせ)の水海(みづうみ)に遊覧せる賦(ふ)一首并せて短謌  此の海は、射水郡(いみづのこほり)の舊江村(ふるえむら)に有り
集歌3991 物能乃敷能 夜蘇等母乃乎能 於毛布度知 許己呂也良武等 宇麻奈米氏 宇知久知夫利乃 之良奈美能 安里蘇尓与須流 之夫多尓能 佐吉多母登保理 麻都太要能 奈我波麻須義氏 宇奈比河波 伎欲吉勢其等尓 宇加波多知 可由吉加久遊岐 見都礼騰母 曽許母安加尓等 布勢能宇弥尓 布祢宇氣須恵氏 於伎敝許藝 邊尓己伎見礼婆 奈藝左尓波 安遅牟良佐和伎 之麻末尓波 許奴礼波奈左吉 許己婆久毛 見乃佐夜氣吉加 多麻久之氣 布多我弥夜麻尓 波布都多能 由伎波和可礼受 安里我欲比 伊夜登之能波尓 於母布度知 可久思安蘇婆牟 異麻母見流其等
訓読 物部(もののふ)の 八十(やそ)伴(とも)の男(を)の 思ふどち 心(こころ)遣(や)らむと 馬並めて うちくちぶりの 白波の 荒礒(ありそ)に寄する 渋谿(しふたに)の 崎(さき)徘徊(たもとほ)り 松田江の 長浜過ぎて 宇奈比川(うないひかは) 清き瀬ごとに 鵜川(うかは)立ち か行きかく行き 見つれども そこも飽(あ)かにと 布施の海に 船浮け据ゑて 沖辺(おくへ)漕ぎ 辺(へ)に漕ぎ見れば 渚には あぢ群(むら)騒き 島廻(しまみ)には 木末(こぬれ)花咲き 許多(ここばく)も 見のさやけきか 玉櫛笥(たまくしげ) 二上山に 延(は)ふ蔦の 行きは別れず あり通ひ いや毎年(としのは)に 思ふどち かくし遊ばむ 今も見るごと
私訳 武士の多くの男たちが親しい同士、気持ちを晴らそうと馬を連ねて、打ち寄せ砕ける白波が荒磯に寄せる渋谿の崎を散策し、松田江の長い濱を行き過ぎ、宇奈比川の清らかな瀬ごとに鵜飼が立ち働き、それを見、これを見、眺めても、なおそれでも見飽きることがないと、布施の海に船を浮かべ留めて、沖に漕ぎ、岸に漕ぐのを眺めると、渚にはあぢ鴨が群れ騒ぎ、島の廻りには梢に花が咲き、なんと景色の清らかなことでしょう。玉櫛笥、その蓋の言葉のひびきのような二上山に、這い延びる蔦のように、行く末も別れることなく、途絶えることなく通い、いや、毎年に気の合う者同士が、このように風流を楽しもう。今も眺めているように。

集歌3992 布勢能宇美能 意枳都之良奈美 安利我欲比 伊夜登偲能波尓 見都追思奴播牟
訓読 布勢の海の沖つ白波あり通ひいや毎年(としのは)に見つつ偲(しの)はむ
私訳 布勢の海の沖に立つ白波のように、途絶えることなく通おう。いや、毎年に眺めて賞賛しよう。
右、守大伴宿祢家持作之   四月廿四日
左注 右は、守大伴宿祢家持の之を作る   四月廿四日

敬和遊覧布勢水海賦一首并一絶
標訓 布勢(ふせ)の水海(みづうみ)に遊覧せる賦(ふ)に敬(つつし)み和(こた)へたる一首并せて一絶
集歌3993 布治奈美波 佐岐弖知理尓伎 宇能波奈波 伊麻曽佐可理等 安之比奇能 夜麻尓毛野尓毛 保登等藝須 奈伎之等与米婆 宇知奈妣久 許己呂毛之努尓 曽己乎之母 宇良胡非之美等 於毛布度知 宇麻宇知牟礼弖 多豆佐波理 伊泥多知美礼婆 伊美豆河泊 美奈刀能須登利 安佐奈藝尓 可多尓安佐里之 思保美弖婆 都麻欲比可波須 等母之伎尓 美都追須疑由伎 之夫多尓能 安利蘇乃佐伎尓 於枳追奈美 余勢久流多麻母 可多与理尓 可都良尓都久理 伊毛我多米 氏尓麻吉母知弖 宇良具波之 布施能美豆宇弥尓 阿麻夫祢尓 麻可治加伊奴吉 之路多倍能 蘇泥布里可邊之 阿登毛比弖 和賀己藝由氣婆 乎布能佐伎 婆奈知利麻我比 奈伎佐尓波 阿之賀毛佐和伎 佐射礼奈美 多知弖毛為弖母 己藝米具利 美礼登母安可受 安伎佐良婆 毛美知能等伎尓 波流佐良婆 波奈能佐可利尓 可毛加久母 伎美我麻尓麻等 可久之許曽 美母安吉良米々 多由流比安良米也
訓読 藤波は 咲きて散りにき 卯の花は 今ぞ盛りと あしひきの 山にも野にも 霍公鳥(ほととぎす) 鳴きし響(とよ)めば うち靡く 心もしのに そこをしも うら恋しみと 思ふどち 馬打ち群れて 携(たづさ)はり 出で立ち見れば 射水川(いづみかは) 湊の洲鳥(すとり) 朝凪ぎに 潟にあさりし 潮満てば 妻呼び交す 羨(とも)しきに 見つつ過ぎ行き 渋谿(しふたに)の 荒礒(ありそ)の崎に 沖つ波 寄せ来る玉藻 片縒(かたよ)りに 蘰(かづら)に作り 妹がため 手に巻き持ちて うらぐはし 布勢の水海(みづうみ)に 海人(あま)船に 真楫(まかぢ)櫂(かひ)貫(ぬ)き 白栲の 袖振り返し あどもひて 我が漕ぎ行けば 乎布(をふ)の崎 花散りまがひ 渚には 葦鴨(あしかも)騒き さざれ波 立ちても居ても 漕ぎ廻(めぐ)り 見れども飽かず 秋さらば 黄葉の時に 春さらば 花の盛りに かもかくも 君がまにまと かくしこそ 見も明らめめ 絶ゆる日あらめや
私訳 藤の花はもう咲いて散ってしまった、卯の花は今こそ盛りと、葦や檜の生える山にも野にも咲き、ホトトギスが鳴いて響むと、いちずに心も萎れて、その景色を心恋しいと感じる者同士が馬を並べて共に出で立って眺めれば、射水川の湊の洲に居る鳥は、朝凪に潟で餌をあさり、潮が満ちると妻を呼び交す、羨ましく眺めて過ぎ行き、渋谿の荒磯の崎に沖からの波が打ち寄せ、また寄せ来る玉藻を片縒りにして蘰を作り、愛しい貴女のためと手に巻いて持って、麗しい布施の水海に、漁師船に立派な楫を差し貫いて、白栲の袖を折り返し、友を率いて私が漕ぎ行くと、乎布の崎には花が散り乱れ、渚には葦鴨が鳴き騒ぐ、さざれ波のように立って居ても、座って居ても、水海を漕ぎ廻ると、風景を眺めても見飽きることなく、秋になったなら黄葉の時に、春になったなら花の盛りに、どうにもこうにも、貴方の御気に召すままに、このようにと、風景を眺めて気を晴らしましょう。見飽きることがどうしてあるでしょう。

集歌3994 之良奈美能 与世久流多麻毛 余能安比太母 都藝弖民仁許武 吉欲伎波麻備乎
訓読 白波の寄せ来る玉藻世の間(あひた)も継ぎて見に来む清き浜辺(はまび)を
私訳 白波が寄せ来る、その寄せ来る玉藻、藻の節(よ)の言葉のひびきではないが、人のこの世(よ)に居る間も絶えず眺めに来たい。この清らかな浜辺を。
右、掾大伴宿祢池主作  四月廿六日追和
左注 右は、掾大伴宿祢池主の作る  四月廿六日に追ひて和(こた)へる

コメント
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