オペラには『リゴレット』や『マクベス』などのように、耐えられないような悲劇もあるが、大方は色恋沙汰をテーマにしたドタバタ喜劇が多い。しかしその中で、たえず追求されているのは真実の愛だ。
『愛の妙薬』では、惚れ薬と称するニセモノのワインを売りつけるドタバタ騒ぎの中で、その薬を手に入れるために軍隊にまで身売りするネモリーノの純朴さに心打たれて、アディーナはついにその愛を受け入れる。
『秘密の結婚』では、結婚相手を探しに来た伯爵ロビンソンは容姿に惹かれてカロリーナに手をだすが、最後はつつましく清純なエリゼッタとの愛を成就させる。
今回の『セヴィリアの理髪師』では、ロジーナの愛を求めるアルマヴィーヴァ伯爵は、自分が伯爵であることを隠し、貧しい学生に身をやつし彼女の前に現れる。「伯爵としてではなく、一人の人間として愛してくれたロジーナの愛」に真実を見出し彼女と結ばれる。
欲得がらみのいろんなチョッカイが交錯するが真実の愛を妨げることはできない。「お金や身分でなく、一介の人間として愛してくれたことがうれしい」とフィナーレで歌い上げる。
この愛の尊さを、初めてオペラを見る人や特に子供たちが、どこまで理解してくれるだろうか? それこそ演出と演技者たちの腕の見せどころというのだろう。