旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

ビールは何処に行くのか(つづき)

2012-05-14 11:04:52 | 

 

 昨日に続き、ビールの中身の変貌に触れる。
 本来ビールは、麦芽、ホップと水を原料として発酵させた醸造酒である(『ドイツビール純粋令』など)。ところが日本の酒税法は、麦芽とホップの他に「法令で定める原料(米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類、着色料としてのカラメル)を加えていいことになっている。エビスやサントリーモルツなどは麦芽とホップだけだが、その他のビールの大半の原材料は「麦芽、ホップ、米、コーン(とうもろこし)、スターチ(でんぷん)」となっている。もちろんその他の原料には制限があり、「麦芽の重量の100分の50を超えないこと」となっているので、逆に言えば「麦芽比率67%(3分の2)以上」のものがビールといえる。そしてビールには、価格の50%近くが税金という高い税率がかけられてきた。
 ビール業界は大手4社を中心に激烈な競争が行われており当然価格競争となるが、半分は税金では価格の下げようがない。そこで何とか高い税率を免れる方法はないかと検討されたのが、「ビールの味を出来るだけ損なわずビール税率を免れる」ことであった。つまり麦芽比率を67%以下にすることで、こうして生まれたのがサントリーの「ホップス」(麦芽比率65%)やサッポロの「ドラフティー」(同25%)などである。これらがいわゆる「発泡酒」と分類されビールの高税率を免れた。味もコクもイマイチであっても国民は低価格に流れて行ったのである。
 価格競争はなお続き、2003年頃から生まれたサントリーの「スーパーブルー」などは、発泡酒にスピリッツを加えたものであるから、最早醸造酒ではなく「リキュールニ」に分類され、その後は麦芽自体も使わないビール風飲料が次々と現れた。すなわち麦芽の代わりに“エンドウたんぱく”を使用したサッポロの「ドラフトワン」、“大豆ペプチド”を使ったアサヒの「しんなま」、「ぐびなま」、“大豆たんぱく”を使用したキリンの「のどごし<生>」などである。これらが「第三のビール」と呼ばれるもので,これらはとてもビールとは呼べないので酒税法では「その他の醸造酒」に分類されている。
 前述(昨日)したように、ビールと発泡酒と第三のビールを合算すると、従来の消費量を維持している。しかし日本人の飲むビールの中身はかなり違ってきているのである。
 
 こうして、麦芽とホップと水を原料として発酵させた醸造酒として数千年の歴史を誇ったビールは、ついに核心とも言える麦芽からも離れていこうとしているのだ。かてて加えて昨日書いたように、ついにアルコールをも除去して、ただ「ビール風味」のみを残す飲料までも現れてきたのである。ビールは何処に行くのか…、と思わざるを得ない。
 もちろん、何を造ろうが、何を飲もうが自由である。ただ、これほど本体から遠く離れたものを、なおビールと呼ぼうとするところに、いったい何があるのかを考えているのである。


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