娘が主宰するオペラ普及団体ミャゴラトーリが、杉並区の補助金交付の対象に選ばれた。資金的な後ろ盾のないこの団体は、心ある少数の支援者(現在2社、20数名)の浄財と、ノー・ギャラに近い出演者たちの協力によりオペラつくりを続けておるが、この度ようやく念願かなって杉並区の補助金対象に合格した。審査の対象となった演目は、オペラ『泣いた赤鬼』。ご存じ、浜田廣介の名作童話をオペラにしようというものだ。
赤鬼は人間が大好きで、人間の子供たちと遊びたくてしようがない。しかし子供たちは一向に赤鬼の家に来てくれない。悲しんでいる赤鬼に対し、親友の青鬼が一計を案じる。「俺が人間の子供たちの中で暴れてやる。お前がその俺を取り押さえれば、みんなお前がいい鬼だと分かって遊びに来てくれるだろう」……赤鬼は、それでは青鬼に悪いと心配するが、ことはその様に運んで、赤鬼と子供たちは仲良くなる。赤鬼は毎日楽しく暮らすが、それ以来青鬼が姿を見せないことに気づく。青鬼の家を訪ねると、そこに張り紙があり、「俺がお前と仲良くすると再び人間の子供たちが怪しみお前を離れる。俺はこの地を去る」とある。赤鬼はかけがえのない友情を失ったことに泣き伏す。
実は、青鬼の策がなくとも子供たちは赤鬼が好きで、一緒に遊びたかった。しかしその子供たちに常に言い聞かせていた親の言葉は、「赤鬼はいい鬼かもしれないが、鬼は鬼だからね」、という言葉であった。これが人間の子供と鬼を裂き、ひいては赤鬼と青鬼の友情までも裂くのである。
差別の根源は、この親たちの「教育」にある。ここに着目して、この演題に取り組むことにしたと娘は言っている。差別という人類的課題は、21世紀に至ってもますます重きを増しているように見える。その本質に、私たちはいつ気が付くのだろうか?
30万円の補助金交付の決定通知に、娘は大喜びをしているが、同時に、この重いテーマに応える取り組みと、どう節約しても100万円はかかるだろうと思われる費用のねん出に、頭を痛めているようである。