新横綱の誕生が期待されて久しい。白鵬が横綱になったのが平成7年というから既に5年前になる。ところが6人もいる大関陣が何か不甲斐なく、毎場所物足りない雰囲気で場所を終えてきた。
その中で、誰が横綱になるかは絶えず求められてきたことであるが、終わってしまえば「やはりこの人だったのだ」と納得せざるを得ない。日馬富士が3回目の挑戦で、ついにその栄誉を勝ち得た。
12年前に来日したときは体が小さく、ただ運動神経の優れていることを見込まれて採用されたらしいが、このところ期するところあったのか体を作り直し、体重も増えて(前場所比5キロ増えて133キロ)、天分の技術に力強さが加わった。このひたむきな精進がこの度の栄誉を生んだのだろう。
それにしても昨日の白鵬戦は素晴らしかった。正に双方とも死力を尽くしたというのはこのようなことだろう。白鵬も、三場所連続して賜杯を手放すことはできないという横綱の意地にかけて全力を出し切ったようだ。特に場所後半からの迫力ある取り口の集大成のような相撲であった。しかしそれをわずかに上回ったのが日馬富士の意欲、体力、技術を合わせた総合力だったのだろう。
「全身全霊、全ての力を振り絞って闘いました」という言葉が、これほど真実味を帯びて聞こえたことはない。またインタービューで、「このような体と力を与えてくれた先祖、両親に感謝する」としたうえで、「今後も感動、勇気、希望を与えるような相撲を目指す」と答えたが、あれだけの相撲の後だけに浮ついた響きはどこにも無かった。
内閣総理大臣賞を手渡すために自ら参上した野田佳彦首相が、「久しぶりに力のみなぎった相撲を見た。鳥肌が立つような感動を覚えた」と表彰状の言葉を結んだが、これは全国民に共通する祝意であっただろう。