晴れ、ときどき映画三昧

「モリのいる場所」(18・日)70点




・ 山﨑努と樹木希林の唯一共演で熊谷守一夫妻を描いたユーモラスな人間ドラマ。


伝説の画家熊谷守一のエピソードをもとに晩年のある夏の一日をフィクションを交えながら描いたのは、「南極料理人」(09)「横道世之介」(13)「モヒカン故郷に帰る」(15)の沖田修一。

昭和49年夏のある日、東京豊島区に守一が暮らす家には草木が生い茂る庭があり、絵のモデルとなる小動物や虫が住みついている。
これらを眺めながらそのささやきや息遣いを感じるのが30年の日課となっている。

戦後、明るい色彩と単純化された<モリカズ様式>と言われた日本を代表する画家でありながら、周りの評価や権威とは無関係に97歳まで絵を描き続けた熊谷守一。

その人となりが窺える本作は彼を敬愛する山﨑努が沖田監督に話をしたことから実現。さらに俳優座の後輩・悠木千帆(樹木希林)が二つ返事で出演OKを出したことで貴重な最初で最後の共演となった。

沖田作品ならではの個性派俳優たちが脇を固めている。守一を撮影することに情熱を傾ける写真家・藤田武に加瀬亮、アシスタントに吉村界人、信州から温泉旅館・雲水館の看板を書いてもらうためやってきた主人に光石研、画商にきたろう、知らない男に三上博史が扮し、いつも茶の間に人が絶えない。

それを苦にせず受け入れ切り盛りするのが50年以上連れ添った妻秀子(樹木希林)と姪美恵ちゃん(池谷のぶえ)のふたり。

沖田監督は<ユーモアのある娯楽作品>を信条とし、守一の人となりを丹念に描きながらも随所に笑いを誘うことは忘れない。

冒頭、昭和天皇(林与一がそっくり)が展覧会場で守一の<伸餅>を観て首をかしげながら「これは何歳の子供が描いた絵ですか?>お尋ねになったり、文化勲章を<袴を履くのがめんどくさい>といって断るシーンなどエピソードを笑いに変える手腕は絶妙なタイミング。
<雲水館>の揮毫を依頼され<無一物>と書いた守一には欲というものには無縁の人だった。

ドリフのコントや宇宙人が登場するなど、下手をすると収拾がつかないところをテンポよく画面を切り取りながら言葉では表現できない可笑しみが伝わってくる。

庭という小宇宙もマンション建設に伴う危機が迫るが、現場監督(青木崇高)との交流で最悪の事態を回避する守一。旺盛な食欲と観察力で生命力溢れる人物であったことが実感された。

改めて、二人の名優共演とそれを支えた脇役陣(とくに池谷のぶえが秀逸)スタッフ(撮影・日永雄太 音楽・牛尾憲輔)を纏めた沖田監督に拍手を送りたい。
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