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・ 茶道に惹かれた女性の体験は、女性の成長記で入門書でもある。
森下典子の人気エッセイを「まほろ駅前」シリーズの大森立詞監督が書き下ろし黒木華が主演。20歳で始めたお茶の魅力に気づき、茶道を通じて日々成長していくヒロインを描いた人間ドラマ。
約25年間を綴ったエッセイを僅か100分で映画化するのはかなりハードな作業だったことだろう。どちらかというとお茶というテーマとはイメージ・ギャップのある大森監督作品はどう映画化されたのか?
いい意味で予想に反しオーソドックスで、真摯に向かいあった茶道入門書の趣もあって心が洗われる作品となった。
主演した黒木華は筆者のお気に入り女優のひとりだが、20歳の女子大生から40代まで、ひとつのものに取り組むことで気づいていく女性を素直に演じ切っていた。
子供のころ観た映画「道」が大人になって分かったように、就職・恋愛・独り住まい・家族との別離それぞれにお茶があって、すぐにわからない茶道の奥深さに気づいてくる。
黒木の真面目なヒロイン像はイメージどおりだったが、武田先生役の樹木希林の存在感があり過ぎていささか影が薄くなってしまった。上品なお茶の先生役とはかけ離れた彼女が現れた瞬間それになり切っている。若手演技派の安藤さくらと黒木華を足して十倍したような稀有な女優であることを認識させられた作品でもあった。
大森演出はお茶のアルアル話を織り込みながら、奇をてらったものをできるだけ排除してお茶の魅力を映像化することに成功、二十四節季とともに音が違うことを丁寧に描写していて好感を持った。
これはカメラの槇憲治、照明の水野研一、美術の原田満生・掘明元紀、音楽の世武裕子など新旧スタッフの尽力の賜物だろう。
昨今の日本の気候は不順で、なかなか思うような微妙な変化とはいかないが、だからこそ茶道のような深遠な世界に触れる大切さを考えさせる作品でもあった。できるなら大画面で音響設備の環境が整った状態で鑑賞してほしい。