晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「悲しみに、こんにちは」(17・スペイン)70点

2018-12-21 15:57:52 | 2016~(平成28~)



・幼い少女が 母の死をどう受け止めたかを追ったドキュメンタリー・タッチ作品。

両親を亡くした少女が、バルセロナから70キロ離れたジローナに住む叔父夫婦に引き取られた1993年のひと夏を描いた、スペイン新人監督カルラ・シモンの長編デビュー作品。原題は「1993年の夏」
自身の体験をもとに書き下ろしたオリジナルでベルリン映画祭新人監督賞を受賞した。

幼い少女が母親の死をどのように受け止め乗り越えようとしているのかを、ドキュメンタリー・タッチで描いたシモン監督は、自身の記憶をもとに出来事を積み重ねながら、主人公の感情の揺れを紡ぎだして行く過程がとてもドラマチックだ。

少女フリダを演じたライア・アルティガスと従妹のアナに扮したパウロ・ロブレスはとても演技とは思えないナチュラルな言動で観客を惹きつけてやまない。

監督は「ミツバチのささやき」(73)をお手本にしたというが、是枝作品も参考にしたに違いない。

1993年のスペインはフランコ政権の終焉とともに自由を謳歌した頃で、突然の解放感から若者たちにドラッグが蔓延し、HIV感染が増加していたという。

まだ不治の病であったエイズで母を亡くしバルセロナからカタルーニャの田舎へ越してきた6歳の少女の戸惑い不安が見え隠れする序盤は、わがままな甘えっ子を露見させる。

叔父のエステバ(ダビド・ベルダグエル)とその妻マルガ(ブルーナ・クッシ)は実子のアナ同様わけ隔てなく扱うが、フリダは環境の変化に戸惑うばかり。

様子を見に来た祖父母のあとを追って泣き叫ぶフリダのシークエンスでは、ドラマチックに盛り上げようとすれば如何様にでもできそうだが、まるでドキュメンタリーのように映像の力だけで観客に委ねる手法をとる。これは尊敬するミュハエル・ハネケ監督から学んだという。

フリダのはけ口が年下のアナに向かい、時には意地悪なこともしてしまうがアナはお姉ちゃんができて大好きだといって楽しそう。

エピソードを丁寧に描いた映像はジローナという田舎町の風景・石造りの家・森の光と影に溶け込んでいて、まるでドキュメンタリーを観るよう。

そのため説明不足は否めないが敢えて情報過多にならず、観客の想像に委ねている。

森の中で見つけたマリア像に母の好きなタバコや水色のワンピースを渡すフリダ。願いが叶わないことで母の死を受けとめ、家出をしようとしたが「暗いから明日にするわ」と言って戻ってきたことで自分の置かれたポジションを知ったのかもしれない。

フリダが新しい家族の一員になれた実感がラストで味わえる、清々しいひと夏の物語だった。