晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ジョイラック・クラブ」(93・米 )70点

2018-10-28 11:57:31 | (米国) 1980~99 

・ 中国移民の母とアメリカ育ちの娘のオムニバス。


20世紀初頭中国からサンフランシスコへ移住してきた4人の女性と、アメリカ人として生まれ育ってきた娘たちのエピソードをオムニバス風に描いたヒューマン・ドラマ。エイミ・タンの小説をオリバー・ストーンの製作総指揮、ウェイン・ワン監督で映画化。

今年、アジア人だけのハリウッド映画「クレイジー・リッチ」がヒットして話題となっているが、本作はアジア人・ハリウッド女優たちが主要な役柄で出演している珍しいハリウッド作品で予想外のヒット。

ジョイラック・クラブとは、中国から移住した4人の女性が麻雀を楽しんだり食卓を囲んでおしゃべりをする懇親会。
30年間主催していたスーユアンが数か月前に亡くなり、娘のジューンが代役を務め夫々の娘たちが勢揃いして賑やかになった。
母親世代には中国在住中の苦労が忘れられず、ジューンには中国に残してきた双子の姉の存在があることが判明する・・・。

1910年生まれの母親世代の中国は、清の滅亡・満州事変・日中戦争・太平洋戦争・中華人民共和国設立の激動期。中国の古い因習や家制度、貧困からの脱出が夫々の生きるエネルギーとなっている。
リンドは16歳で親が決めた婚約者と結婚。子供ができないことで義母から日夜責められるが、召使の女性の妊娠をたてに離婚、上海現在の夫と渡米してウェヴァリーが生まれる。
インインは夫リン・シャオがオペラ歌手と不倫家出、精神不安定で子を殺害。渡米してセントクレアと結婚、リーナを生む。
アンメイは幼い頃豪族の第4夫人である母が自殺するという辛い思い出がある。渡米してローズを生む。

サンフランシスコの娘たちに幸せなって欲しいという願いが過度な干渉になったり、娘の夫が理想とはかけ離れた存在だったり、形が変われど夫々生き方の悩みは尽きない。娘に託す母の想いと娘が答えられないもどかしさが回想シーンとともに描かれて行く。

4組8人の女性の物語で、巧く構成されている138分は決して長くは感じなかったが、もう少し絞っても良かったかも。

知っている女優はミンナ・ウェン(ジューン)、タムリン・トミタ(ウェヴァリー)、ヴィヴィアン・ウー(アンメイの母)ぐらいだったが、見間違えがないのは同じアジア人だったせいか。

人種・男女の差別がグローバルな問題となっている現在、見直してみるのも意味があるのでは?





「女は二度決断する」(独・17) 70点

2018-10-23 13:54:11 | 2016~(平成28~)

・ D・クルーガー渾身の演技による復讐ドラマ。




突然の爆発事故で、愛する夫と息子を失った主人公の女性が憎しみと絶望のなか下した行動は?

<愛・死・悪に関する三部作>など、欧州での三大国際映画祭で賞に絡んだドイツの若手ファティ・アキン監督・脚本によるサスペンス・ドラマ。

ドイツ警察戦後最大の失態と言われた極右グループNSU(国家社会主義地下組織)による連続殺人事件がヒントになっている。

主演は「ナショナル・トレジャー」、「イングロリアス・バスターズ」のダイアン・クルーガーが母国語で初挑戦し、カンヌの主演女優賞を受賞した。

ドラマは家族/カティアの失意と喪失感、正義/裁判シーン、海/ギリシャの海の三部構成。

ドイツ・ハンブルグ。トルコ移民のヌーリと結婚したカティア(D・クルーガー)は幸せな日々を送っていたが、白昼起こった爆発事故で突然夫と息子・ロッコを失ってしまう。

警察はトルコ人同士の抗争を疑っていたが、カティアの証言をもとにNSUによるテロと判断する。ここから法廷劇となるが、思わぬ判決に・・・。

カティアに扮したD・クルーガーによる渾身の演技が最大の見所だ。

幸せだった家族との想い出、移民との結婚による実家との確執、事件後の嘆きを、悲しみ・怒り・戸惑いなど様々な感情で演技する様子は本人になりきっての大熱演。

脇役陣では夫の友人でカイアを親身になって庇う弁護士ダニーロのデニス・モシット、容疑者の父で証人として出廷した容疑者の父役のウィリッヒ・トゥクール、厳つい顔で容疑者の弁護をして観客の反感を買うハーベックに扮したヨハネス・クリシュが印象に残った。

トルコ系移民の両親を持つF・アキン監督は、移民問題という社会的テーマを背景に主人公のパーソナルなドラマへと集約して、家族を理不尽に殺された一般人の自衛ムービーで観客に判断を委ねている。

サムライのタトゥをした主人公の行動は、法律では解決しない哀しみを癒す唯一の方法だったのだろうか?


「ウィンストン・チャーチル / ヒトラーから世界を救った男」(17・英 )65点

2018-10-15 10:45:42 | 2016~(平成28~)

 ・ 人間チャーチルになりきったG・オールドマン。


第二次世界大戦下、連合軍はナチス・ドイツ軍にダンケルクの海岸に追い込まれる。英国首相に就任したウィンストン・チャーチルの4週間を通して、徹底抗戦という苦渋の選択に至る歴史エンターテインメント。原題は「Darkest Hour」(最も暗い時)。

アンソニー・マッカーテンの脚本を「プライドと偏見」「つぐない」のジョー・ライトが監督。辻一弘の特殊メイクによってゲイリー・オールドマンがオスカー主演男優賞を受賞した。

チャーチルといえば、ナチス・ドイツが全ヨーロッパを支配しようとしているピンチに<英国がヒトラーに屈するか?戦うのか?>という究極の選択に挑んだ政治家である。

偉大な政治家・ノーベル賞作家・絵の才能に長けた芸術家・帝国主義者・庶民の暮らしに疎い富豪などいろいろな側面を持つ人物でもある。

本作では偉人伝に多い英雄賛歌と勧善懲悪のドラマから脱却して人間チャーチルに迫ろうと頑張っているが、結局は勝利の立役者として描かれているので微妙なところも・・・。

愛妻クレメンティーン(クリスティン・スコット・トーマス)から豚ちゃんと呼ばれる彼は、ベットでスコッチを飲みながら朝食を執るというシーンで登場する。

葉巻をくゆらせ新任のタイピスト・エリザベス(リリー・ジェイムズ)を叱りつけ口述筆記させるさまは気難しい65歳の老人で、国難に立ち向かう指導者には相応しくないがどこか愛される変人の趣きがある。G・オールドマンの、頑固で人間味溢れるキャラクターに成りきった名演が光る。

ジョージ6世(ベン・メンデルスゾーン)からは敬遠され、チェンバレン首相(ロナルド・ピックアップ)・ハリファックス外相(スティヴン・ディレイン)にとって偏屈な嫌われ者だったチャーチルが、ドイツとの融和政策が破綻し辞任したチェンバレン政権のあと挙国一致内閣の首相として、独特の文才と雄弁な演説で局面打開する様子は<言葉の魔術師>そのもの。

ドラマは朝昼晩酒を飲み、葉巻を銜える豪胆なチャーチルがトイレで孤独感を漂わせたり、個人的友情で結ばれたジョージ6世のアドバイスで市民の声を聴くため地下鉄に乗って徹底抗戦の決意を固めるなど、虚実を交えながら議会で入魂の演説をする。

<成功も失敗も終わりではない。肝心なのは続ける勇気だ。>

チャーチルの絶対に何があっても諦めないという徹底抗戦の決断は、多数の犠牲者を伴う危険な行為でもあり敗者・ヒトラーや東条英機と表裏一体ともいえる。

非常時に現れた型破りの政治家・チャーチルは、邦題の副題のように本当に世界を救ったのだろうか?あらためて考えるキッカケになった映画だ。






「ギルバート・ブレイク」(93・米 )80点

2018-10-07 12:20:07 | (米国) 1980~99 

・ ハルストレム監督×J・デップ主演×R・デカプリオ共演のヒューマン・ドラマ。




 知的障害の弟アーニーと過食症で超肥満の母親の面倒を見ながら、食料品店で働く主人公ギルバートが自身の生き方について悩み・見つめ直すヒューマン・ドラマ。スウェーデン監督ラッセ・ハルストレム、主演ジョニー・デップ、共演レオナルド・デカプリオの出世作として記憶に残る作品でもある。

 映画評論家・淀川長治が<映画の詩人>と称したハルストレム監督。「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(85)、後の「サイダー・ハウス・ルール」(99)と並ぶ彼の代表作。

 7年前父が自殺、兄が家を出てしまい、アイオアの片田舎エンドーラから出たことがないギルバート。母は250キロもあって身動きが取れず、弟から目が離せないなか5人家族の大黒柱として気苦労の絶えない日々。

  何かに縛られて上手く生きられない閉塞感。その象徴が人妻ベティ(メアリー・スティーンバージェン)の誘惑を断れないまま2年が過ぎていた。

  弟アーニーは給水塔に上ったり、年に一度来る放浪の旅をするトレーラーを観るのが好きな自由な心の持ち主。

 折しも祖母と二人でトレーラーで旅するベッキー(ジュリエット・ルイス)と出逢い、広い世界に出ていけない不自由な暮らしに葛藤するギルバート。

 ピーター・ヘッジスの脚本は予定調和の感無きにしも非ずだが、家族の絆をベースに人間の在りようを絶妙なさじ加減で描いている。

 主演のJ・デップは悩み葛藤する若者像を爽やかに、R・デカプリオは15歳ながら純粋な少年を綿密なアプローチで夫々好演し、後のスター街道を歩む片鱗が窺えた。

 浜に打ち上げられたクジラと母を演じたダーレン・ケイツの存在もこの映画には欠かせない。’17年、69歳で亡くなったが幸せな実生活だったとのこと。子供への愛情溢れる演技は長く記憶に残ることだろう。


「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(17・米)75点

2018-10-02 16:38:37 | 2016~(平成28~)

・ 6歳の少女の視点で米国の歪みを描いた人間ドラマ。




フロリダのディズニー・ワールドの近く安モーテル<マジック・キャッスル>を舞台に、アメリカの格差社会の一例を切り取り6歳の少女の視点で描いた人間ドラマ。

監督・共同脚本はショーン・ベイカー、主人公ムーニーにはブルックリン・キンバリー・プリンス、母親にはブリア・ヴィネイト、優しく見守る管理人ボビーにはウィレム・デフォーが扮しオスカー助演賞にノミネートされた。

夢の国の象徴ディズニー・ワールドの近くで子供たちが遊んでいるのを目撃したのをキッカケに、脚本のクリス・バーゴッチとともに取材を始めたベイカーは、サムプライム・ローンズのため家を失った隠れホームレスの存在を知って本作の映画化構想をしたという。

モーテル<マジック・キャッスル>に住むムーニーは、下の階のスクーティ、隣のブロックに住むジャンシーと遊び仲間。閉鎖したレジャーランド、コンドミニアムの廃墟を遊び場に悪戯し放題。

ムーニーの若い母ヘイリーは定職を持たずその日暮らしだが、娘には人一倍愛情を注いでいる。

こんな二人の日常は、明るい陽射しのフロリダとはウラハラに脆弱な社会環境そのもの。どう見ても破たんが来るのではとハラハラさせられる。

モーテルの管理人ボビーはそんな二人の善き理解者だが、金のためヘイリーがやった行為には手の施しようもなかった。

35ミリフィルム使用のカメラは、ムーニーの視点であるローアングルと大人目線のアングルを駆使して物語を描いている。そのため悲劇がことさら強調されていないが、貧困による負の連鎖は画面から滲み出てくる。

子役たちの自然な演技は「誰も知らない」の是枝作品を思わせる。ベイカー監督は台本と演技を叩き込んでからアドリブを取り入れたという。天才少女の演技や本格的演技は初体験のB・ヴィネイトとともにリアルさが本作を魅力的にしている。

iphoneによる無許可撮影のラストシーンは賛否両論だが、幼いムーニーが成長するためのステップであると想いたい。

ベイカー監督には英国マイク・リー作品のような貧困にメゲズ頑張っている市井の人々を描き続けて欲しいと願っている。