・ 人間チャーチルになりきったG・オールドマン。
第二次世界大戦下、連合軍はナチス・ドイツ軍にダンケルクの海岸に追い込まれる。英国首相に就任したウィンストン・チャーチルの4週間を通して、徹底抗戦という苦渋の選択に至る歴史エンターテインメント。原題は「Darkest Hour」(最も暗い時)。
アンソニー・マッカーテンの脚本を「プライドと偏見」「つぐない」のジョー・ライトが監督。辻一弘の特殊メイクによってゲイリー・オールドマンがオスカー主演男優賞を受賞した。
チャーチルといえば、ナチス・ドイツが全ヨーロッパを支配しようとしているピンチに<英国がヒトラーに屈するか?戦うのか?>という究極の選択に挑んだ政治家である。
偉大な政治家・ノーベル賞作家・絵の才能に長けた芸術家・帝国主義者・庶民の暮らしに疎い富豪などいろいろな側面を持つ人物でもある。
本作では偉人伝に多い英雄賛歌と勧善懲悪のドラマから脱却して人間チャーチルに迫ろうと頑張っているが、結局は勝利の立役者として描かれているので微妙なところも・・・。
愛妻クレメンティーン(クリスティン・スコット・トーマス)から豚ちゃんと呼ばれる彼は、ベットでスコッチを飲みながら朝食を執るというシーンで登場する。
葉巻をくゆらせ新任のタイピスト・エリザベス(リリー・ジェイムズ)を叱りつけ口述筆記させるさまは気難しい65歳の老人で、国難に立ち向かう指導者には相応しくないがどこか愛される変人の趣きがある。G・オールドマンの、頑固で人間味溢れるキャラクターに成りきった名演が光る。
ジョージ6世(ベン・メンデルスゾーン)からは敬遠され、チェンバレン首相(ロナルド・ピックアップ)・ハリファックス外相(スティヴン・ディレイン)にとって偏屈な嫌われ者だったチャーチルが、ドイツとの融和政策が破綻し辞任したチェンバレン政権のあと挙国一致内閣の首相として、独特の文才と雄弁な演説で局面打開する様子は<言葉の魔術師>そのもの。
ドラマは朝昼晩酒を飲み、葉巻を銜える豪胆なチャーチルがトイレで孤独感を漂わせたり、個人的友情で結ばれたジョージ6世のアドバイスで市民の声を聴くため地下鉄に乗って徹底抗戦の決意を固めるなど、虚実を交えながら議会で入魂の演説をする。
<成功も失敗も終わりではない。肝心なのは続ける勇気だ。>
チャーチルの絶対に何があっても諦めないという徹底抗戦の決断は、多数の犠牲者を伴う危険な行為でもあり敗者・ヒトラーや東条英機と表裏一体ともいえる。
非常時に現れた型破りの政治家・チャーチルは、邦題の副題のように本当に世界を救ったのだろうか?あらためて考えるキッカケになった映画だ。