晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ナチュラル」(84・米)60点

2017-12-30 15:59:21 | (米国) 1980~99 

 ・ 正義感溢れるヒーローを演じたR・レッドフォードの野球映画。 


バーナード・マラマッド原作「奇跡のルーキー」をもとに、米国における30年代のプロ野球界を舞台に不遇を乗り越え35歳でメジャー・デビューした男の半生を描いたファンタジー。

野球で天性の才能を発揮したロイ・ホップスがスカウトの目に留まりプロ入りを決意、シカゴへ来たとき不運にも謎の女性に銃で撃たれ道を閉ざされる。
16年後、35歳のルーキーとしてNYに現れた彼は、賭けが横行しているなか<愛と正義を遺憾なく発揮する>という大人の寓話。

原作は悲劇だったが、映画ではハッピーエンドに脚色。野球奨学生だったロバート・レッドフォードが47歳にして念願の野球映画に主演している。

アメリカにとってメジャー・リーグは日本の相撲のような存在。人気スポーツにつきものの賭けの対象になっていてスキャンダルも多く、20年代から世間を賑わしていたのは八百長問題。映画でも後にK・コスナーの「フィールド・オブ・ドリームス」にも取り上げられたシューレス・ジョー・ジャクソンのブラック・ソックス事件が有名。

本作でもベーブ・ルースがモデルの飛ばし屋(ジョー・ドン・ベイカー)との賭け対決があったり、なんと球団オーナーがギャンブラーと結託して自分のチームの負けに賭けるという奇想天外なもの。

弱小チーム・NYナイツの4番バッターとして彗星のごとく現れたホップス。オーナーの愛人メモ(K・ベイシンガー)の誘惑によるスランプを乗り越え、ホームランを連発する。
ボールが裂けたり、ネットを突き破ったりするのを観て、マーシー記者(ロバート・デュヴァル)はシカゴで会ったホップスを思い出す。
ホップスは大切なワールドシリーズ進出を決める試合に古傷が疼き、選手生命を絶たれるのを覚悟で愛称・ワンダー・ボーイのバットでバッターボックスに立つ・・・。
それは幼馴染だったアイリス(グレン・クローズ)のためでもあった。

ストーリーは奇想天外だが、R・レッドフォードを巡ってスポーツ選手連続殺人鬼の女性(バーバラ・ハーシー)・オーナーの愛人メモ(K・ベイシンガー)・幼馴染アイリス(G・クローズ)が彩を添え、名手キャレヴ・デシャネルの詩情豊かでノスタルジックな映像とともにこの時代感覚を醸し出している。

照明灯が花火のようになるなど、ケレンミたっぷりのレビンソン演出にはいささか荒唐無稽さはあるものの、ホップスが息子とキャッチボールするエピローグは<不遇だった父親が挫折から立ち直るための応援歌>でもあった。

「怪物はささやく」(16・米/スペイン) 70点

2017-12-28 17:08:24 | 2016~(平成28~)

・ 大人も楽しめる英作家P・ネスのファンタジーを実写化。




病を患っている母の事実を受け止められない英国湖水地方に住む13歳の少年に、イチイの樹の怪物が語る「善悪」「信念」「存在」の物語を描いた寓意に満ちたファンタジー。

パトリック・ネス原作を自ら脚本化、「永遠のこどもたち」(07)、「インポッシブル」(12)のスペイン監督J・A・バヨナが担当し、ゴヤ賞9部門を受賞。

12時7分、少年・コナーの前に現れた怪物が語る3つの物語はとても哲学的。
最初の<黒の王妃と若き王子の物語>は、別の真実があって「善悪」には二面性があることを示唆。
2つ目の<薬師の秘薬の物語>は、娘を救うために神父が信仰心を揺るがす矛盾をついて「信念」の難しさを暗示。
3つ目の<透明人間の男>は、「存在」を無視されることの辛さを伝えている。

少年が持つ様々な矛盾を怪物は比喩的に語って聞かせ、4つ目に真実の物語を語るよう迫って行く。それはお互いが離れたくなくても別れなければならないことやウマが合わない人とも受け入れなくてはいけないことなど大人が現実に向き合っていることを少年に諭しているようだ。

コナーを演じたルイス・マクドゥーガルは少し幼い感じもするが、いじめられっ子で両親の離婚に悩む等身大の少年を大きな眼と細い身体で好演。母親役のフェリシティ・ジョーンズはダイエットを頑張って静の演技、祖母役のシガニー・ウィバーは孫への愛情を隠していた思いやりのある役柄で好印象。

米国に新家庭を持つ父トビー・ケベルが唯一身勝手に感じるが、これが大人の世界だという役割。

イチイの怪物の声を担当したのはリーアム・ニーソン。モーション・キャプチャー(動きをデジタルに記録する技術)にも挑戦、陰の主役でもある。

原作にはない叙情的なエピローグは、葛藤する少年が本音を言うことで大人への階段へ一歩踏み出したようだ。


「美女と野獣」(17・米)70点

2017-12-25 11:54:18 | 2016~(平成28~)


・ 実写版でディズニーが技術の粋を尽くしたファンタジー。




91年製作のディズニー・アニメを実写でリメイクしたドリーム・ファンタジー。監督は「ドリーム・ガールズ」のビル・コンドン。主演のベルには「ハリーポッター」シリーズのエマ・ワトソン。

本作で筆者がまず連想するのは、TVで島津亜矢と堂珍が歌った主題歌ぐらいのディズニー映画とは無縁で、さかのぼっても子供のころ観た「ピーターパン」か「わんわん物語」というほどのディズニー音痴。

それでも映画館で観た本作は退屈せずに楽しめたのは、美しい映像と音楽、それにディズニーが渾身のエネルギーを費やしたセット・美術に加え最新のVFX・CGを駆使したこと。

加えて脇を固めた豪華なキャストでストーリーも現代を意識して、ちょっぴり今風にした大人にも鑑賞に堪えうる作品に仕上げた成果といえる。

主演のE・ワトソンは「ラ・ラ・ランド」のオファーを断念してレッスンに専念し、歌も吹き替えなしで披露している。年齢より可愛らしい風貌がベル役にぴったり。

野獣役にはダン・スティーブンスで王子姿はほとんどないが、恐怖感を抑え知的で愛情を秘めた役柄。

脇を固めた父親にケビン・クライン、蝋燭に変えられたウェイターにユアン・マクレガー、時計に替えられた執事のイアン・マッケラン、ポットに替えられたエマ・ワトソンなど芸達者な俳優を配し、アニメの吹き替え版にはない厚みを魅せている。

敵役のガストンにはルーク・エバンスが扮し、手下・ルフウ(ジョシュ・ギャッド)とともに物語を盛り上げているが、ルフウのゲイ的役割という感じはあまりしなかった。

有名な主題歌をデュエットしたのはアリアナ・グランデと「ラ・ラ・ランド」にも出演していたジョン・レジェンド。ともにアメリカの人気歌手だが、筆者には島津亜矢やアニメ版で有名になった?セリーヌ・ディオンのほうが耳に残っている。

このトシになって、独りでディズニー作品を観るのも珍しい体験の130分だった。

「LION ライオン 25年目のただいま」(16・豪)75点

2017-12-22 14:08:33 | 2016~(平成28~)

・ 豪華キャストで、奇跡の実話をもとに辿った感動のドラマ。




インド中部カンドワで育った5歳の少年が迷子になって、25年後に故郷を探し出したという奇跡的な実話をもとに、「英国王のスピーチ」製作陣がデブ・パテル、ルーニー・マーラー、ニコール・キッドマンらの豪華キャストで映画化。

監督は長編デビュー作品となったガース・デイヴィス。CM出身監督らしく臨場感溢れるカットやタスマニアの雄大な風景描写などが素晴らしい。オスカー受賞はならなかったが作品賞など6部門にノミネートされている。

題名の副題は童話「母を訪ねて3千里」を連想してしまったが、構成は主人公の幼年期と青年期の2部構成。

5歳の主人公・サルーを演じたサニー・パワールがとても愛くるしく、自然で純粋な演技が本作成功の最大要因。

兄・グドゥとともに列車の石炭を盗み牛乳に変え持ち帰るプロローグで、一家の貧しい境遇が分かる。幼いサルーが兄の出稼ぎについて行き、停車中の電車で眠って見知らぬ土地(コルカタ)へ運ばれ、迷子になってしまう。
路上生活や危ない目に遭いながら孤児院に収容されるまでハラハラ・ドキドキしながら見守った。

インドでは8万人以上の行方不明の子供たちがいるという。 孤児院での生活がまるで少年刑務所のような扱いにもインドの国情がリアルに映されていて驚くが、インド里親養子縁組協会(ISSA)という慈善団体があるのも初めて知った。

サルーはタスマニアのオーストラリア人夫婦の養子となり、愛情を注がれノビノビと育った。青年期のサルーにはインドにルーツを持つイギリス人俳優デヴ・パテル。「スラムドッグ&ミリオネア」の少年が立派に成人していた。

養母をニコール・キッドマンが演じている。養子縁組経験を買われてのオファーだったせいか流石の存在感。養子にした動機にも意外性があった。

メルボルンの学校で知り合った恋人にルーニー・マーラーが扮しているが、添え物的役柄のルーニーにもったいない気がした。

実家を思い起こさせるキッカケは揚げ菓子ジャレビで、食べられなかった幼い頃の思い出。
家に閉じこもってしまったサルー最大の助け舟はGoogle Earth。幾つかの記憶をもとに探し出した故郷の名前<ガネストレイ>は<ガネッシュ・タライ駅>だった。

青年期における展開はエピソードを盛り込みすぎ、盛り上がりに欠けるきらいがあったのが残念!

エピローグで兄・クドゥの所在とサルーの名前の由来を知って、このドラマに一区切りがついたように感じた。



「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(16・米)80点

2017-12-20 17:25:34 | 2016~(平成28~)

・ オスカー脚本作品で蘇ったC・アフレック。




ボストン郊外でアパート管理人をしている主人公が、兄の訃報で故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻り、過去と向き合って行くヒューマン・ドラマ。
長編3作目のケネス・ロナーガン監督・脚本によるオリジナルでオスカー脚本賞、主演したケイシー・アフレックが主演男優賞を受賞している。

マンチェスター・バイ・ザ・シーの街並みと海が映り、バックに賛美歌が流れ船に乗る少年と男が釣りをしているプロローグが期待感を持たせる。

ドラマは雪のボストンで働く主人公リーの淡々とした日常が描写され、訃報の電話で故郷へ戻るが釣りのシーンは何時で誰なのかスグには分からない。

現在と過去が交錯する映像は観客に委ねながら進行するので、ぼんやりしていると置いて行かれそう。筆者が風邪で体調不良気味だったせいか。

やがて余命10年だったリーの兄・ジョーが亡くなって、少年は甥のパトリックだと判明、16歳になっていた。さらに元妻が行方不明のため、葬儀を取り仕切るのはリーしかいなかった。

覚悟の死だったジョーは、パトリックの後見人にリーを選んでいたが、リーには忘れることができない忌まわしい過去の悲劇と向き合うことになる。

自分の過失によって3人の子供を失い、妻ランディ(ミシェル・ウィリアムズ)とも別れるハメに・・・。

「アルビノーニのアダージョ」の曲をバックに幸せだった家族の崩壊を映像で見せることで、リーが何故罪を背負った世捨て人のような暮らしだったかがようやく分かる。

ロナーガンの脚本は、過去の出来事がタイムリーに再現される展開で観客をグイグイ引っ張って行き、目が離せない。

子供を失ったリーと父を失ったパトリックの疑似親子の再生はなるのか?

リーを演じたC・アフレックは「容疑者ホワン・フェニックス」で業界から干されていたが、複雑な感情表現を巧みに演じ、当初演じる予定だったマット・デイモンに恩返し、見事な復活を魅せている。

パトリックに扮したルーカス・ヘッジスは多感な等身大の少年を好演、一躍若手のホープに躍り出た。

所々にユーモアを交えカットバックを重ねたこのドラマの結末は、最初の幸せだったボートのシーンでエピローグとなる。

体調が良い時にじっくり味わいたい<孤独な男同士の再生ドラマ>だ。



「ジャージー・ボーイズ」(13・米) 80点

2017-12-09 13:35:46 | (米国) 2010~15

・ 50~70年代カルチャーを映像化した84歳C・イーストウッドの豊かな感性。




60年代「シェリー」などのヒット曲で一世を風靡したポップス・グループ「ザ・フォーシーズンズ」。4人の栄光・挫折・再生をリード・ボーカルのフランキー・バリ(ジョン・ロイド・ヤング)を中心に描いた人間ドラマ。この年84歳の御大・クリント・イーストウッドがブロードウェイ・ミュージカルを題材に映画化している。

「シェリー」「君の瞳に恋してる」しか知らず、ミュージカル音痴でもある筆者にも、充分楽しめる万人向けの作りで、<人はどう生きるか?>というテーマであらゆるジャンルに触手を伸ばすイーストウッドの若々しい感性とその技量に感服した。

米国東部ニュージャージー州、イタリア移民の街育ちのトミーとニックは、ファルセット・ボイスのフランキーを入れ<スリー・ラバーズ>というバンドを結成。
その後シンガーソング・ライターのボブ・ゴーディオを誘い、地元マフィアのボスであるジップ・デカルロ(クリストファー・ウォーケン)が後見人となるが、なかなか芽が出ない。
プロデューサーのボブ・クルーに拾われるがバック・コーラスの仕事ばかり。 一念発起してシングルを自費出版したのが「シェリー」だった。

それからはトントン拍子でヒットを連発するが、御多分に漏れず仲間割れの危機も。最大の危機はリーダー・トミーの莫大な借金でデカルロの仲介も及ばない・・・。

イーストウッドは彼らの成長物語をヒット曲とともにテンポよく運び、ポップス満載の青春群像ドラマ化にしている。そのためミュージカルの映画化を期待していたファンには不評だったようで、本国での評判は今ひとつだったよう。
日本では筆者のような御大のファンも多く、この舞台をほとんど観ていない観客にとって「ドリーム・ガールズ」(シュープリームス)や「Rey レイ」(レイ・チャールズ)同様、「ザ・フォーシーズンズ」の音楽ドラマとして受け止められた感があり、ネガティヴな要素がなかったのでは?

わずかな行き違いからグループの解散という宿命は人気グループによくあること。借金を返済するためどんな仕事でも引き受けたフランキー。その代償は家族の崩壊、そして一人娘を失う悲劇へと進んで行く。

そんな時、ボブ・クルー作詞でボブ・ゴーディオが作曲したのが「君の瞳に恋してる」だった。ファルセットで歌わなかったフランキーの逆転ホームランとなる。

この曲で思い出す映画は「ディアハンター」。本作でボス役である若き日のC・ウォーケンがバーで歌うシーンが印象に残っている。

エンドロールで彼らの半生が振り返られ、全員が踊るカーテンコールで幕を閉じるのは爽やかさ満載だ。
映画は疑似体験という持論の筆者だが、84歳でこの感性にはとても及びそうもない。

「普通の人々」(80・米)80点

2017-12-05 14:50:59 | (米国) 1980~99 

・ WASPの崩壊を描いたR・レッドフォード監督デビュー作.




シカゴ郊外の閑静な住宅街に住む弁護士一家。半年前にヨット事故で長男を亡くしして以降、夫妻と次男がちぐはぐとなり家庭崩壊して行くWASP(上流中産家庭)を描いたヒューマン・ホームドラマ。
ロバート・レッドフォードが初監督し、オスカー作品・監督賞など4部門を獲得した。

パッヘルベルのカノンがバックに流れる枯葉が舞う美しい街並みの高級住宅街。ジャレット一家の朝食シーンで始まるこのドラマは、3人がそれぞれの苦悩を抱えながら表面化させないようにする気遣いがかえって不協和音が聞こえてくる。

一見平穏な暮らしは、長男の事故死で次男コンラッドが責任を負って精神を病み入院、リストカットしていた。コンラッドを演じたのはティモシー・ハットン。筆者の知っているハットンはデブラ・ウィンガーの元夫でプレイボーイとして有名なことと、TVドラマ「グルメ探偵ネロ・ウルフ」での助手役で記憶がある程度だが、本作の繊細で迫真の演技によって20歳で最年少オスカー(助演男優賞)を獲得している。

父カルビンは、妻と息子の板挟みに悩む優しいが気弱なエリート弁護士。演じたのは個性派脇役として名高いドナルド・サザーランド。ここでは抑えた演技で堂々の主役ぶり。

母べスは、世間体を気にする理想的な家庭の主婦を装うが、溺愛する長男を失い夫・次男に愛想をつかしている。扮したメアリー・タイラー・ムーアは今年1月80歳で亡くなったが、コメディアン・司会者として名を売ったひと。本作では微塵も感じさせない感情欠如したリアルな見栄っ張りの女を哀しく演じている。

レッドフォード監督は3人それぞれの苦悩を微細な心理描写とともに浮かび上がらせ、人間関係の難しさを丁寧に描いて重苦しいテーマながら最後まで引張って行く。俳優としての華やかなイメージを払拭し、とても初監督とは思えない力量を発揮していて、その後の監督としての活躍ぶりが納得させられた。

映画は疑似体験が持論の筆者だが、カルビンように決断することはできそうもない。