晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「インサイダー」(99・米) 70点

2016-05-31 17:09:57 | (米国) 1980~99 

 ・ あんたはビジネスマンなのか?ニュース屋なのか?

                

 人気報道番組・プロデューサーが大手たばこメーカーの不正を糾すために元重役にインタビュー。番組をそのまま、流すために局内で上司に喰って掛かる。

 実話をもとにマイケル・マンが描いた渾身の実録社会派ドラマで、CBC「60ミニッツ」プロデューサー、バークマンにアル・パチーノが扮し、B&W社・元重役ワイガンドにラッセル・クロウが演じている。

 バークマンは看板ジャーナリストであるマイク・ウォレス(クリストファー・プラマー)とともに人気番組を背負っている。自らの信念に忠実であろうとするため、上層部の意向でスクープが骨抜きで放送されることを善しとしない熱血プロデューサーは正にはまり役。

 ワイガンドはB&W社の研究開発部門副社長というポストに高給で迎えられたことで、喘息の娘の医療費を賄い瀟洒な家を持つことができたが、自社製品に発がん性のあるクマリンが含まれていることで板挟みになる。

 2人の立場は働く人間には誰にも思い当たる節がある話だけに、どう対処すべきかはとても緊迫感がある。結局この2人は相応しい行動をする報酬が退職による減収という歯切れの悪さが付きまとう。

 なかでもワイガントは踏んだり蹴ったりで退職金カット、医療保険解約、家族への脅迫、旧悪を暴きネガティヴ・キャンペーンで証言差し止めを迫られる。

 それでも州を超えてミシッピー州で証言することで、告訴を取り下げることができたが、家族は離散してしまい、大きな代償を負ってしまう。

 映画はメディアの在り方を問いかけるテーマでありながら、寧ろそれに関わった人の犠牲が浮き彫りとなていく矛盾が際立ってしまったという現実が印象的になってしまった。

 日本にいたことがあるワイガンドは箸を上手に使い「ちょっと、おねえさん。」というシーンが親近感を持たせてくれる。実在のワイガンドは01年5月27日来日し、WHO世界禁煙デー記念特別講演会で公演している親日家。

 たばこと健康被害の歴史は何十年も繰り返され漸く今日があるが、何人もの犠牲があったことを思い出させてくれる作品だ。

 本作はオスカー7部門にノミネートされながら、受賞はならなかった。何らかの圧力があったのでは?と勘繰るのも不思議ではない。

「パリ3区の遺産相続人」(14・英 仏 米) 75点

2016-05-19 11:56:51 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・花は散り際が美しい!

                  

 パリ旧市街のマレ地区を舞台に<ヴィアジェ>というフランス独自の不動産売買に絡んだヒューマン・ストーリー。イスラエル・ホロヴィッツの戯曲を自身が初監督した。原題は「MY OLD LADY」。

 NYからパリにやて来たマティアス(ケヴィン・クライン)は父の遺した高級アパルトマンを処分しようとしたが、そこには90歳の老婦人マティルド(マギースミス)が住んでいた。

 マティルドは<ヴィアジェ>契約の売主で、買主から毎月2400ユーロを貰い暮らしているという。マティルドが死んだら買い主のものになるが、それまでは処分できないという。

 おまけに娘のクロエ(クリスティン・スコット・トーマス)まで同居していて、マティアスが居続けるなら不法侵入で訴えるといわれる始末。

 3人を軸に家族の歴史を振り返るシリアスだがユーモアもある愛憎劇は如何にも舞台劇が原作であるような展開だが、映画ならではの魅力はこんなところに住んでみたいと思わせるパリ・マレ地区の情景。

 最初はいがみ合っていたマティアスとクロエ。古い写真立てにあった若かりし頃のマティアスの父とクロエの母のポートレート。そこには<あなたに愛されないなら、誰の愛もいらない>というサインがあった。

 マティアスは父の裏切りと母の自殺、クロエは母の不倫を抱えながら生きてきた人生を共感するようになり・・・・。

 そこでマティアスがクロエに言った言葉が<花は散り際が美しい>。

 これが口説き文句になるとは驚きだ。万一筆者が、ほめ言葉のつもりで50代の女性に言ったらセクハラで訴えられそう。

 「いちご白書」(70)、「さらば青春の日々」(72)など青春映画の脚本家として記憶があるホロヴィッツ。76歳にして初メガホンを撮ったのは本作への愛情によるものだろう。

 マティルドを演じたM・スミスの<不倫であっても本当に好きな人とは愛を全うしたい>という強かな女性の生き方が、50代の男女を立ち直らせる要因ともなって、この愛憎劇は幕を閉じる。

 エンディングの途中に2カット入るので、最後まで見届けてから席を立つのをお勧めしたい。

「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」(14・米) 75点

2016-05-13 16:59:37 | (米国) 2010~15

 ・ M・フリーマン、D・キートン初共演!味わい深い夫婦の物語。

                   

 モーガン・フリーマンとダイアン・キートンの熟年夫婦が住み慣れたブルックリンのアパートを住み替えることになり、慌ただしい週末を過ごすハートフル・コメディ。監督は「リチャード三世」(95)などのリチャード・ロンクレイン。

 アメリカの代表的な俳優二人が、初共演というのが驚き。プロデュースしたM・フリーマンがジル・シメントの原作<眺めのいい部屋売ります>を映画化するにあたり相手役にD・キートンを指名して実現した。

 居心地が良く40年も住んでいた家を売る動機とは?エレベータのない5階のため、夫・アレックス(M・フリーマン)の足腰を心配した妻・ルース(D・キートン)が言い出したもの。

 内心気が進まないアレックスだったが、10歳の愛犬のためにも妻の気遣いには逆らえなかった。ここで人一倍張り切ったのが姪で不動産エージェントのリリー(シンシア・ニクソン)。

 本作で新聞で告知して内覧会を開き、オークションするという不動産売買方法を知った。

 長いキャリアで幅広い役柄をこなしてきたM・フリーマン。その誠実な人柄を反映した「許されざる者」(92)、「ショーシャンクの空に」(94)、「ミリオン・ダラー・ベイビー」(05)などが筆者のお気に入り。

 D・キートンは「アニー・ホール」(78)、「恋愛適齢期」(04)で2度のオスカーを手にしていてコメディ主体のラブ・ストーリーはまさにはまり役。メガネがキュートな元教師役は彼女のためにあるような役柄だ。

 この2人が結ばれたのはまだ黒人と白人の結婚が30州で禁止され20州で嫌悪されていた時代だというのもアクセントになっている。

 貧乏画家だったアレックスはモデルとなったリリーに好意を持ち、人生に張りと勇気を感じさせてくれるパートナーの大切さを知る。

 さりげなく若い頃の2人の逸話を織り込みながら、理想の住み替えができるか?というこのドラマは、愛犬ドロシーの病気とブルックリンとマンハッタンを結ぶ橋のタンクローリー事故が絡み、慌ただしくなる。

 「空飛ぶヒーローではなく、老夫婦の物語を作りたかった」というM・フリーマン。こんな素敵な夫婦は現実ではなかなか難しいが、夫婦でアパートに40年住んでいる筆者と似ているので身近なお手本として少しでも見習いたいと思いながら鑑賞した。

「レヴェナント 蘇りし者」(15・米) 80点

2016-05-05 18:04:38 | (米国) 2010~15

 ・ <生きることの意味>を映像のパワーで迫ったイニャリトゥ×ルベツキ×ディカプリオ。

                   

 建国間もない米国北西部を舞台に、狩猟ハンターが瀕死の重傷を負いながらサバイバルの旅を通じて観たものは?

 レオナルド・ディカプリオが4度目のオスカー・ノミネートで初の栄冠、アレハンドラ・G・イニャリトゥ監督が2年連続、エマニュエル・ルベツキ撮影監督が3年連続受賞した強力トリオに加え、坂本龍一音楽を担当した話題作。最新設備の映画館で観るべき映画だと思い久しぶりシネコンで鑑賞。

 主人公は伝説のハンター、ヒュー・グラスで、ネイティヴ(ポーニー族)の妻との間に生まれた息子とヘンリー狩猟隊チームのもとでナビゲーターを務めていた。

 途中、グリズリー(ハイイロクマ)に襲われ瀕死の重傷を負い担架で運ばれるが、介護役のフィッツジェラルドに置き去りされたうえ、息子まで殺されてしまう。

 奇跡的に命を執り止めたグラスは、復讐の執念を胸にサバイバルの旅が始まる・・・。

 ときには静寂で美しく、ときには恐ろしいほど荒々しい大自然。突然のネイティヴ(アリカラ族)による矢の襲撃・銃の音・熊との格闘などなど・・・圧倒的な映像のちからに心を奪われる映画だ。
 
 予定より大幅に製作期間を掛け、夜明け・夕暮れの逆光が映えるマジック・アワーで撮影した映像は、それだけで大自然の偉大さを物語っている。

 大自然で生きる白人(アメリカ人フランス人)、ネイティヴ・アメリカン(アリカラ族・ポーニー族)たちの人間模様を背景にちらつかせながら展開するサバイバルの旅は、音が吸収されるモノトーンの景色が過酷で壮絶なものにする。

 グラスは原始の暮らしのような生肉・雑草・生魚を喰らい、火で傷跡を焼き、内臓を取り出した馬の皮の中で暖を摂る。ベジタリアンのディカプリオは吹き替えなしでやり遂げ栄冠を手にしたが、ここまで執念を燃やしたのは<環境に関心を払う彼の心情>に本作がマッチしたからだろう。

 共演したトム・ハンターは「インセプション」(10)で共演したディカプリオの推薦によるもの。敵役だが金に執着する実に人間的な儲け役で、台詞の少ないディカプリオを向こうに廻し終盤まで緊張感を持たせる役柄を好演している。

 ヘンリー隊長のドーナル・グリーンソン、若者ブリジャーのウィル・ポールターなど旬の俳優、本作がデビュー作の息子・ホーク役フォレスト・グッドラックなどが脇を固めてそれぞれが適役。

 グラスを襲った熊は子供を守るため、グラスは愛する息子の復讐のため、それぞれ闘うのも皮肉なことだし、グラスを救ったポーニー族の男を白人が縛り首にするシーンも残酷。

 長旅で妻の顔も思い出さないという隊長に比べ、グラスは亡くなった妻の姿を観たのが救いだろうか?

 緊迫感溢れる映像とともに、<生きることの意味を絶えず問いかける>ような、一筋縄では行かないサバイバル・ロードムービーだった。
 

「エリート・スクワッド」(07・ブラジル)70点

2016-05-02 18:01:11 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ ブラジルの社会派ポリス・アクションは、ベルリン金熊賞受賞作品。

                   

 リオのスラム街を描いた「シティ・オブ・ゴット」(02)を観て、大都会の歪みによる悲惨な犯罪事情を知らされたが、本作は97年のブラジル軍警察の特殊警察作戦大隊(BOPE)という組織の視点で描いた社会派ポリス・アクション。監督はジョゼ・パリージャ。

 BOPEは江戸時代の<火付盗賊改方>のような組織で、犯罪撲滅のためには容赦なく殺害を認められている。云わばブラジル版「鬼平犯科帳」。

 隊員ナシメント大佐(ヴァグネル・モーラ)はローマ法王来訪に伴い、危険なスラム街・トゥラーノの麻薬ディーラー一掃命令を受ける。

 日々の過度な勤務で神経が消耗し、妻の妊娠を機に後継者を探し引退しようとしていた矢先だった。折しも野外ダンス・パーティ会場で警察・ギャング・市民を巻き込む銃撃銭となり、2人の若い警官マチアス(アンドレ・ハミロ)とネト(カイオ・ジュンケイラ)がBOPE入隊を決意する。

 BOPEとはどのような組織で何故存在するのか?リオの実情を如実に表している。貧富の差は著しく、スラム街は犯罪の温床で、麻薬ディーラーと警察は癒着状態、。大学構内にまで麻薬が横行、NGO活動すら元締めに牛耳られている有様。

 正義感溢れる2人の警官は「フルメタル・ジャケット」を彷彿させる壮絶な訓練を受け、続々と脱落者が出て行くなか生き残って行く。

 パリージャ監督は、ドキュメンタリータッチの映像で有無を言わせずストーリーを引っ張って行く。命懸けの緊迫感溢れる展開は隊員3人を取り巻く人間にも及ぶ。一般市民の正義感が如何にも偽善に満ちたもので無意味だと警鐘を鳴らしているようにも見える。

 それほど混迷した当時のリオには、隊員の人格をも歪め犠牲にするBOPEは不可欠な存在となっている。だが、力ずくの行動は抜本的解決にはならないのも事実。

 本作はブラジルで大ヒットし続編が製作されたが、筆者は満腹状態でしばらくはスルーすることにする。

 ブラジルは14年ワールド・サッカーを無事終了したが、今年は南米初のオリンピック・パラリンピック開催を控えている。未だに政治・経済も不安定でジカ熱の流行も懸念されている。無事に開催されるだろうか?成功を願って已まない。