・花は散り際が美しい!
パリ旧市街のマレ地区を舞台に<ヴィアジェ>というフランス独自の不動産売買に絡んだヒューマン・ストーリー。イスラエル・ホロヴィッツの戯曲を自身が初監督した。原題は「MY OLD LADY」。
NYからパリにやて来たマティアス(ケヴィン・クライン)は父の遺した高級アパルトマンを処分しようとしたが、そこには90歳の老婦人マティルド(マギースミス)が住んでいた。
マティルドは<ヴィアジェ>契約の売主で、買主から毎月2400ユーロを貰い暮らしているという。マティルドが死んだら買い主のものになるが、それまでは処分できないという。
おまけに娘のクロエ(クリスティン・スコット・トーマス)まで同居していて、マティアスが居続けるなら不法侵入で訴えるといわれる始末。
3人を軸に家族の歴史を振り返るシリアスだがユーモアもある愛憎劇は如何にも舞台劇が原作であるような展開だが、映画ならではの魅力はこんなところに住んでみたいと思わせるパリ・マレ地区の情景。
最初はいがみ合っていたマティアスとクロエ。古い写真立てにあった若かりし頃のマティアスの父とクロエの母のポートレート。そこには<あなたに愛されないなら、誰の愛もいらない>というサインがあった。
マティアスは父の裏切りと母の自殺、クロエは母の不倫を抱えながら生きてきた人生を共感するようになり・・・・。
そこでマティアスがクロエに言った言葉が<花は散り際が美しい>。
これが口説き文句になるとは驚きだ。万一筆者が、ほめ言葉のつもりで50代の女性に言ったらセクハラで訴えられそう。
「いちご白書」(70)、「さらば青春の日々」(72)など青春映画の脚本家として記憶があるホロヴィッツ。76歳にして初メガホンを撮ったのは本作への愛情によるものだろう。
マティルドを演じたM・スミスの<不倫であっても本当に好きな人とは愛を全うしたい>という強かな女性の生き方が、50代の男女を立ち直らせる要因ともなって、この愛憎劇は幕を閉じる。
エンディングの途中に2カット入るので、最後まで見届けてから席を立つのをお勧めしたい。