晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『ラウンド・ミッドナイト』 80点

2010-02-25 17:04:41 | (米国) 1980~99 

ラウンド・ミッドナイト

1986年/アメリカ

ジャズ・ファンには堪らない本物の魅力

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆90点

実在のジャズ・ピアニスト、バド・パウエルの実話をもとにテナー・サックスの巨人と彼に心酔する若きイラストレーターの交流を描いた仏米合作映画。主演のデクスター・ゴードンをはじめ、一流ジャズメンが出演・演奏していてファンには堪らない本物の魅力を味わえる珠玉の作品。
’59パリのブルーノートへ出演するためにNYを立ったデイル・ターナー(D・ゴードン)。クラブの音楽監督・ピアニストのエディ(ハービー・ハンコック)らが温かく迎える。雨が降りしきるなか外で演奏に聴き耳を立てている若い男がいた。
9歳の娘を持つ貧しいフランシス(フランソワ・クルゼ)で、神のように素晴らしかったと感動する。たった2杯のビールを奢ったことがきっかけで、交流が深まり一緒に住むようになる。
酒とドラッグで体をむしばられ命を縮めてしまったD・ゴードンは自伝ではないかと思わせる自然な演技で、この作品は彼なしでは考えられなかったほど。オスカー候補になったのもうなずける。
バド・パウエルは軍隊時代妻が美人の白人だったので上官に苛められたり、後の妻で愛称「バター・カップ」がマネージャーでギャラは本人に渡らなかったという逸話がありこの映画にも出てくる。
孤高のジャズマンにとってフランスにいた晩年は人生を振り返った貴重な空間と最後の創造行為のときだった。別れのパーティ、録音スタジオ、リヨンの旅が詩情豊かなドキュメント映画のようだ。ベルトラン・タヴェルニエ監督は筋金入りのジャズファンらしく、ドラマとして必要以上に盛り上げることなく退廃的なムードにどっぷり浸かって映像化してくれた。本作品にも出演しているハービー・ハンコックがオスカー・オリジナル作曲賞を受賞している。NYかぶれの興行師としてマーティン・スコセッシが出演しているのも一興。


『血と砂』 80点

2010-02-23 12:16:58 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

血と砂

1965年/日本

娯楽活劇と反戦を融合させた戦争映画

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「独立愚連隊」など縦横無尽な戦争活劇で知られる岡本喜八監督が、三船プロのバックアップを得て反戦映画を融合させた。主演の三船敏郎はこの年「赤ひげ」「姿三四郎」のほか2本に出演している。そのバイタリティには感嘆するほかない。
ときは昭和20年の北支戦線。いきなり敵の音楽「聖者の行進」が流れ、デキシーランドジャズと日本軍というミスマッチに面食らう。が、そのテンポの良さに見入ってしまう。
これは音楽学校の少年軍楽隊13人の少年たちで戦線派遣を反対した小杉軍曹(三船敏郎)が佐久間大尉(仲代達矢)傘下の独歩大隊へゆく途中であった。
古参兵には炊事係の犬山一等兵(佐藤允)葬儀屋の持田一等兵(伊藤雄之助)厭戦のため三年営倉入りの通信兵・志賀一等兵(天本英世)など個性豊か。紅一点の慰安婦お春(団令子)も欠かせない。それぞれが人間性を見せながら、戦場では正義も悪もなく殺し合いしかない虚しさをコミカルに描きながら見せてゆく。
黒人たちの葬送曲「聖者の行進」が悲しみを増して聴こえた。


『イルマーレ』 75点

2010-02-21 15:53:30 | (米国) 2000~09 

イルマーレ

2006年/アメリカ

12振りの共演を楽しむ

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「スピード」で共演して以来、12年ぶり2度目の共演となったキアヌ・リーブスとサンドラ・ブロック。韓国映画ファンにはお馴染みの2年間のギャップを超えたファンタジック・ラブストーリーで原作より大人の2人に設定されている。タイトルは「THE LAKE HOUSE」だが、邦題は韓国映画と同じにしてリメイクを強調して韓国映画ファンの取り込みを狙っている。
’04、シカゴ郊外のレイク・ハウスに越してきた建築家アレックス(K・リーブス)と研修を終えた若い医師ケイト(S・ブロック)は手紙でお互いを知るようになる。シカゴの病院勤めとなったケイトに会う約束をしたのが2年後の明日レストラン「イルマーレ」だった。
決して会えることのない2年の誤差を行き来する2人を細かく詮索しては幻滅するストーリー。
ここは2人の恋物語をそれぞれの家族のように見守るしかなさそうだ。
もうひとつの主役「レイク・ハウス」は撮影用に35トンの鉄材を使ってつくったとか。建築の都市シカゴの歴史ある建築物とともにマニアには必見。主題歌にポール・マッカートニー、挿入歌にキャロル・キングを使って盛り上げにひと役買っている。肝心の恋の行方は、どうでもいい?
S・ブロックはイメージとは違うひたむきなヒロインを好演していてなかなか大女優への道を歩み始めている。K・リーブスは実年齢より若々しいが無難な芝居で、及第点か?
シナリオにもう少し配慮が欲しかった。


『フローズン・リバー』 85点

2010-02-20 15:47:56 | (米国) 2000~09 

フローズン・リバー

2008年/アメリカ

社会から見捨てられがちな人々にこそドラマがある。

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

アメリカNY州最北端の町に起こる2人の母親の子供への愛を描いたコートニー・ハント監督の長編デビュー作。08サンダンス映画祭のグランプリを受賞したにもかかわらず、1年遅れでようやく公開となった。映画の宿命である興業面からみると配給会社が躊躇するのも無理はないが、公開にこぎつけてくれた映画館(シネマライズ)に拍手を送りたい。
いきなりやつれた中年女性がアップになり溜息と一粒の涙で始まるこのドラマは、97分を息をのむスリリングな展開で観客を惹きつけ釘づけにしてしまう。彼女は15歳と5歳の息子を持つトレーラー・ハウスに住む白人女性レイ(メリッサ・レオ)で、その原因は新しいハウスの購入資金を夫に持ち逃げされたのが原因と分かる。
もうひとりの女性は死んだ夫の母親に赤ん坊を奪われたモホーク族保留地に住んでいるライラ(ミスティ・アップハム)。
交流のないはずの2人が出会い、それぞれの理由から凍ったセントローレンス川を車で渡りアジアの不法移民を密入国させ報酬を受けることに。そこには貧困・人種問題・家族の破壊など現代社会が抱えるさまざまな問題が見え隠れする。そして子供のためなら自分を犠牲にすることをいとわない母性愛という普遍的なテーマをドラマチックに描いて共感を呼ぶ。
「21グラム」で好演したM・レオに短編シナリオを渡し快諾してもらって以来4年越しで実現した本作は、監督自身の生い立ちが関与している。生まれは南部だがシングル・マザーに育てられ、人種差別は未だに解決していない。15歳の息子TJ(チャーリー・マクダーモット)に蒸発した父親を慕うセリフが何故か痛々しい。
それでも必要以上に悲惨さを盛り上げることなくときには微笑ましく感じるのは、子役たちの素直さと無邪気な演技。とくにTJのキャラクターに救われる想いでこんな素直な少年に育ったことに将来への希望が溢れている気がした。
いま話題の「アバター」とは両極にある作品だが、是非ひとりでも多くの人に見て欲しい映画である。


『馬喰一代(1951)』 80点

2010-02-18 12:02:16 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

馬喰一代(1951)

1951年/日本

大衆の心をとらえた父子の絆

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

日本ユースホステルの創始者として青少年の健全育成に力を注いだ中山正男の自伝的小説を木村啓吾が脚色・監督した。何といってもキャスティングが凄い。前年「羅生門」でカンヌ映画祭でグランプリを取った三船敏郎・京マチ子に志村喬が加わるという豪華キャスト。大衆に親しまれた原作は、映画でも昭和初期の北見の情景に繰り広げられる父と子の絆に加え、男を一途に慕う女ごころと男同士の友情を情感たっぷりに描いて観客の心をしっかりとらえている。
主演の三船敏郎(片山米太郎)は「北海の虎」というあだ名の馬喰のイメージどおり。後の「無法松」に通じる得意のジャンルとなった。
京マチ子は個性的な役が多く、料理屋の酌婦で一途に男を慕う役は物足りなかったと思うが、難なくこなして流石。役得だったのは志村喬。元馬喰で高利貸に転じ、後に代議士になるという敵役だが、最後で米太郎親子を救う美味しい役。馬の疾走シーンなど吹き替えなしで頑張っていた。
無学で無鉄砲だが、情に熱い男は大衆の心をとらえて離さない。


『インビクタス/負けざる者たち』(09・米) 80点

2010-02-14 09:57:34 | (米国) 2000~09 




インビクタス/負けざる者たち


2009年/アメリカ






衰えを知らないC・イーストウッド








総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





黒人初の南ア大統領N・マンデラが就任間もない’95、自国で行われた第3回ラグビーワールド・カップの物語。マンデラと親交があったモーガン・フリーマンが長年温めていた企画をクリント・イーストウッドが監督した。2人のコンビは「許されざるもの」(’92)「ミリオンダラー・ベイビー」(’04)に続く3本目だが何れも外れはなく、今回も単なる偉人伝を超えた心に沁みるヒューマン・ストーリーに仕上がっている。
緑の芝生で白人スポーツの象徴であるラグビーをしている若者たち。道路を挟んで黒人少年たちが荒れた土のなかでサッカーに興じている。カメラはその道路を反アパルトヘイトの罪で27年間の刑期を終えたN・マンデラの車が通過してゆくのを俯瞰で捉えてゆく。このファースト・シーンで観客の心をわしづかみにしてしまう。アンソニー・ベッカムの脚本に応えたC・イーストウッドの手腕は衰えを見せず、高いメッセージとともに最後まで魅了される。
スポーツを政治利用することは古今東西例を挙げればキリがないが、囚人から大統領になったマンデラの復讐をせず赦すことの偉大さを人種問題を抱えた自国の人々に訴えた政治センスは素晴らしいとしか言いようがない。復讐しないイーストウッドは前作「グラン・トリノ」で初めて観たが、彼はいまのアメリカにこのメッセージを託していたのかもしれない。南ア代表チーム<スプリング・ボクス>のキャプテン フランソワ・ピナール(マット・デイモン)は典型的な白人家庭に育ち、アパルトヘイトを当たり前のように過ごしてきた。2人に近況を交互にだしながら人柄を描いてゆく手法も上手い。彼を官邸に呼んだマンデラのシーンが静かな感動を呼ぶ。
後半はワールド・カップのドキュメントへ移ってゆくが、ラグビーに興味がない人にも、臨場感たっぷりでスポーツ映画としても充分見ごたえがある。とくにモールのシーンでの息づかいはトム・スターンの撮影をはじめイーストウッド・チームの技の冴えが光る。決勝では強豪ニュージーランドを相手に大接戦、延長でドロップ・ゴールを決めた南アが勝つなど、事実がドラマを上回る展開となる。日本がニュージーランドに歴史的大敗を喫したことしか記憶がない自分にとって、リアルタイムで見るような興奮を覚える。
M・フリーマンはマンデラの癖を研究して姿かたちが違っていても全く違和感のない演技。オスカーを取って欲しい。対するM・デイモンも吹き替えなしの大健闘もさることながら、あらゆるプレッシャーを乗り越え不屈の戦いを勝ち取った若者を等身大に見せ、近作では最も好演している。
いまの南アには人種差別はなくなったが、貧富の差は広がり諸問題を抱えている。次回のサッカーワールド・カップは何をもたらすのだろうか?人種の壁は埋まらない現実は、この映画がきれいごとに写るともいえる。イーストウッドは百も承知で敢えてこの作品を監督したに違いない。