晴れ、ときどき映画三昧

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マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『倫敦から来た男』 85点

2009-12-20 10:45:49 | (欧州・アジア他) 2000~09

倫敦から来た男

2007年/ハンガリー=ドイツフランス

登場人物の心情を執拗に追う緊張感

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

ベルギーの文豪ジョルジュ・シムノン原作といえば「メグレ警視シリーズ」が有名だが、この作品はその対極にある主人公の心の奥底にある本質を探るノワール・サスペンス。映像化が難しい原作を、得意の長廻しのカメラによるモノクロで異様な緊張感を醸し出したのは、ハンガリーの鬼才といわれるタル・ベーラ監督。「ヴェルクマイスター・ハーモニー」以来7年目の新作だ。
北フランスの港町で暮らす主人公のマロワン(ミロス・ラヴ・クロボット)は判で押したような単調な日々の繰り返し。線路の切り替えをする鉄道員の彼は毎夜イギリスから来る船から鉄道に乗りかえる様子を制御室から監視しているが、ロンドンから来た男2人が堤防で争いひとりが海に突き落とされる。突き落とした男は傍らのホテルへ入ったまま出てこない。マロワンは落ちたトランクを拾い開けてみると、中にはポンド札がぎっしり入っていた。
冒頭のこのシーンは、普通の監督なら僅か5分もあれば充分なのに、タル・ベーラはなんと30分近くかけて映像化している。「彼の平凡な生活に疑いを持ちながら、誘惑に打ち勝ち人間の尊厳を保つ勇気を持つ人間であることを願う」監督にとって外せない時間なのだろう。
妻(ティルダ・スウィントン)や娘・アンリエット(ボーク・エリカ)には何も言わず、殺人犯・ブラウン(デルジ・ヤーノシュ)の影に怯える不器用な彼と、まるでリアルタイムで一緒にいるようなテンポでひしひしと訴えてくる。ヒッチコックのように決して大きな音量で観客を恐怖に陥れることはしない。不穏な音楽が深い霧に包まれたこの街と人々を映し出していて、モノクロならではの何とも魅力的な世界である。
俳優はチェコやハンガリーの個性派揃い。主役のM・L・クロボットは感情表現が下手で朴訥な労働者を身体中で表現。妻のT・ウィンストンはアカデミー賞女優らしく、やるせない心情を魅せ好演だが、ノーブルすぎて生活苦が滲み出るような感じはしない。むしろブラウン夫人のフィルテシュ・アーギのまばたきしないアップの表情が見どころ。30分ですむストーリーを、登場人物と一緒に体験した気分に浸った138分だった。



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