晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『私の中のあなた』 85点

2009-10-25 11:07:48 | (米国) 2000~09 

私の中のあなた

2009年/アメリカ

普遍的なテーマ「家族の絆」を丁寧に描いたN・カサヴェテス

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

ジョディ・ピコーのベストセラー小説を「きみに読む物語」のニック・カサヴェテス監督が、難病の長女を巡る一家の葛藤を繊細でやさしい眼差しで描いた家族のドラマ。
いきなりアナ役であるアビゲイル・ブレスリンの「姉のドナーとして生まれてきた」というショッキングなナレーションが始まるこのドラマは、臓器移植問題という思いテーマを包含しながら社会派的切り口ではなく普遍的なテーマである「家族の絆」を丁寧に描いている。
骨髄性白血病に侵されたケイトの命を救うため遺伝子操作で生まれたアナ。11歳のとき腎臓移植を拒否し両親を訴訟するという展開がこのドラマを牽引して行く。
監督を父(ジョン)に大女優(ジーナ・ローランズ)を母に持つカサヴェテスは死に直面した家族がどのような想いで行動するのかを追いかけて映画化している監督。「ジョンQ-最後の決断ー」では難病のこどもを救うため病院に立てこもる父親を、「きみに読む物語」では年老いて認知症になった妻を最後まで見守る夫の視点から語られている。本作は家族全員の視点で描かれていて、その膨らみが増す分フラッシュ・バックによる構成が前後関係を煩雑にしている。監督自身はリリカルな雰囲気を出すためと言っているが、もっと単純に時を追っていったほうが良かったのでは?
出演陣は全て好演している。とくにアナのA・ブレスリンとケイトのソフィア・ヴァージリヴァの姉妹が上手い。A・ブレスリンは「リトル・ミス・サンシャイン」で米アカデミー賞候補になったほどの実力者だが、S・ヴァージリヴァは複雑な娘心を見事に表現して観客の涙腺を刺激して止まない。そしてキャメロン・ディアスは弁護士を辞めて盲目的に娘の命を救うため立ち向かうタフな母親を、ノー・メイク、スキン・ヘッドで熱演し芸域を広げた。
脇を固めるジェイソン・パトリックは優しい眼差しで見守りながら大事なときは毅然とした理想の父親像を、アレック・ボールドウィンは自身の病気を隠し法より人間の尊厳を大切にする弁護士役を、ジョーン・キューザックは従来のコミカルなイメージとは間逆の娘を事故で失った判事役を好演。それぞれが、この心温まるドラマを盛り上げている。
原作とは違う脚本にカサヴェテスのこだわりが見えるが、エンディングは丁寧過ぎた気がする。


『秋日和』 80点

2009-10-22 15:49:57 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

秋日和

1960年/日本

得意なジャンルでコミカルなスパイスを振りまいた晩年の小津

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

晩年の小津安二郎が「彼岸花」に続いて里見の原作を映画化。「晩春」(’49)以来、<結婚を期に親子の複雑な心情をキメ細やかに描く>という得意のジャンルを時代{’60(昭和35年)}を切り取ってじっくり見せてくれた。カラー化しても落ち着いた独特のトーンとローアングル・固定カメラは健在である。
未亡人となっても慎ましく微笑みを絶やさない母と母親思いの優しい娘の親子。母は服飾学院で教師をしながら丸の内の商事会社で働く娘とたまに外食するのが楽しみ。平穏な母子の生活に何かと世話を焼くのが亡夫の学友3人(佐分利信・仲村伸郎・北竜二)で立派な社会人ながら学生気分丸出し。とぼけたやりとりでコミカルなスパイスを振りまいている。加えてこれが本格デビュー作となる司葉子の親友役の岡田茉莉子が、3人に絡んでやり込めてゆく存在感あふれる演技を見せ、さすが名優岡田時彦の娘だと唸らせる。のちの大女優・岩下志麻が受付嬢で出ていて2年後小津の遺作・「秋刀魚の味」のヒロインに抜擢されたのも大船松竹の晩年を象徴している。
60年といえば安保闘争の最中で、日本が大きくかわろうとする激動期。松竹も大島渚・篠田正浩のヌーベルバーグが胎動し始めた頃でもある。
のちの高度成長期を支えた若者が適齢期を迎えたこの時代、親子とは?家族とは?を追い続けた小津安二郎にとって、ドライとウェットという流行語を交えながら「変らぬ日本人の心情」をしっかり見据えた作品であることは間違いない。


『空気人形』 85点

2009-10-10 15:35:21 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

空気人形

2009年/日本

リアルな描写と見事に融合させた大人のファンタジー

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆85点

人と人との関わり方をテーマに映画化してきた「誰も知らない」の是枝裕和監督、「歩いても歩いても」以来2年ぶりの長編6作目である。大都会東京に取り残されたような下町を舞台に繰り広げられた大人のラブ・ファンタジー。
心を持ったラブドールが外に出てさまざまな出会いと別れを繰り返す。人形を恋人代わりにする男といえば「ラースとその彼女」が似た設定だが、これは人間ではなく人形が主役で、ロボットが感情を持つスピルバーグの「AI」に近い。一歩間違えると危ない映画になるドラマについて行けるか心配したが、主演のペ・ドゥナの清潔感あふれる演技もあって安心して入って行けた。
ラブドールの持ち主はレストランで働く秀雄(板尾創路)。5980円で買った空気人形(ペ・ドゥナ)に、のぞみと名づけ、恋人の代用品として孤独感を癒している。心を持ってしまった代用品・のぞみが初めて発した言葉は「き・れ・い」。メイド服を着て外へ出ると何気ない風景がのぞみにとって新鮮なワンダーランドだ。リー・ピンビンのカメラがエモーショナルに情景を映し出し、ゆったりとした流れに身を委ねて行く。
登場人物は都会で暮らす孤独な人々。アルバイト先のビデオ・レンタル店の店長(岩松了)は毎朝玉子かけご飯を食べて出勤する。店員の純一(ARATA)も何か寂しげ。その孤独な青年に好意を抱き、好きな人はいるかと聞かれ「いいえ」とウソをつく。心を持った故である。
是枝監督はこれでもかというほど心がからっぽの人々を周りに配す。元高校の代用教員の老人(高橋昌也)、TVの事件をメモして犯人を名乗る老婦人(冨司純子)、年を取ることを恐れる会社受付嬢?(余貴美子)、過食症で閉じこもりのOL(星野真里)、悪徳警官の映画ばかり借りにくる交番巡査(寺島進)、妻を待ち続ける男(丸山智己)と娘(奈良木美羽)親子。それぞれの日常が切り取られる。リアルな描写が大人のファンタジーと見事な対比を見せ融合している。
のぞみは、老人が教えてくれた吉野弘の詩「生命は、その中に欠如を抱き それを他者に満たしてもらうものだ」を純一に託す。
生みの親の人形師(オダギリ・ジョー)が、生きることの意義を示唆してくれるとても切ない物語で、是枝監督がひと回り大きくなったことを証明してくれた。


『あの日、欲望の大地で』 85点

2009-10-05 16:01:28 | (米国) 2000~09 

あの日、欲望の大地で

2008年/アメリカ

予備情報なしで見て欲しい緻密なストーリーテリング

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

原題は「THE BURNING PLAIN(燃える大地)」だが邦題には違和感がある。「21グラム」「バベル」の脚本を手掛けたギジュルモ・アリアガが構想15年企画を温めた監督・長編デビュー作。
海辺の街ポートランドのレストラン・マネージャーのシルヴィア(シャーリーズ・セロン)、メキシコで農薬散布の小型飛行機を操縦する父と12歳の娘、国境沿いの街・ニューメキシコに住むジーナ(キム・ベイシンガー)はメキシコ人と不倫、娘のマリアーナ(ジェニファー・ローレンス)は不審を抱く。3つのストーリーが時代と場所を超え同時に進行しながらひとつの物語になってゆく緻密なストーリーテリング。
面白さが半減しそうなので、できれば予備情報なしで見て欲しい。
S・セロンはこの作品に惚れこんでエグゼクティヴ・プロデューサーを引き受けたほど。オープニングのヌード・シーンにドギモを抜かれる。過去に囚われながら葛藤を抱え岐路に立つ女性を見事に演じ切った。
S・セロンの指名で起用されたK・ベイシンガーも全裸のラヴ・シーンを見せ、ヒトを愛する悦びと哀しさを表現して共感を呼ぶ。そしてジーナの娘・マリアーナ役の新人ジェニファー・ローレンスから目を離せない。ヴェネチア国際映画祭のマルトロ・マストロヤンニ賞(新人賞)を受賞。アリアガ監督にメリル・ストリープの再来と呼ばせたほど。この作品にとって重要な役柄でもある。
ラスト・シーンで救いがあって良かったと思うのか、物足りないと思うかでこの作品の評価がまるっきり違ってくる。


『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』 80点

2009-10-04 14:04:10 | (米国) 2000~09 

正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官

2008年/アメリカ

ハリソン・フォード起用の意味は?

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

南ア出身の新鋭ウェイン・クラマーが、自身の短編をハリソン・フォード主演でリメイク。さまざまな国からロスへ不法滞在している人々と、それを取り締まる移民局I.C.E捜査官とのヒューマン・ドラマ。
紡績工場で不法労働のメキシコ人ミレア(アリシー・ブラガ)。南ア出身でミュージシャン志望のキャビン(ジム・スタージェス)とオーストラリアからきた女優志望のクレア(アリス・イヴ)。バングラデシュ出身の高校生タズリマ(サマー・ビシル)を擁護する弁護士デニス(アシュレイ・ジャッド)。不良グループにコリアタウンへの強盗を強要されたヨン(ジャスティン・チョン)とイラン出身のI.C.E捜査官ハミード(クリフ・カーティス)。それぞれのハナシがクロス・オーバーしながら移民で成り立つ自由の国の複雑な内情と個人の夢や家族の幸せのため必死に生きる移民たちの物語が繋がって行く。ロスを舞台に人種問題をテーマにしたアカデミー賞受賞作品「クラッシュ」に似た構成である。
H・フォードは人情味あふれるベテラン捜査官に扮し好演だが、いつものヒーローとは違う群像劇には違和感があり、全体の雰囲気とは浮いた存在。彼の起用の意味は作品の重みと興行上の理由か?
編集で30分ほどカットされたので無駄のない展開だが、少し説明不足の部分も。社会派ヒューマン・ドラマとしては少し物足りなかった。
米国で自由を得ながら妹の生活振りに苦悩するハミード役のC・カーティスとA・ジャッドの気品ある美しさが目立っていた。レイ・リオッタの人間臭い移民判定官も相変わらずの悪役振りで印象的。


『ユナイテッド93』 80点

2009-10-02 10:24:32 | (米国) 1980~99 

ユナイテッド93

2006年/アメリカ=イギリス

感動を呼ぶドキュメンタリー・タッチのフィクション?

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

「ブラディ・サンデー」(未見)でベルリン国際映画祭の金熊賞を「千と千尋の神隠し」と同時受賞したポール・グリーングラス監督。入念な取材をもとに脚本化したアメリカ同時多発テロに関する感動を呼ぶドラマ。
P・グリーングラス監督といえばマット・デイモン主演のボーン・シリーズ2作を手掛けたアクション監督として有名だが、本来は事実をもとにドキュメンタリー・タッチの作品に真骨頂のヒトらしい。本作はブッシュ政権のプロタバンガ映画として賛否が問われたようだが、フィクションとして観ると見応え充分。
01.9.11ニューアーク空港発SF行き乗客・乗員40名を乗せたユナイテッド93便は平穏な飛行を続けていたが、乗客の中に4人のテロリストがいた。ドラマの前半は乗客・乗員のさりげない会話がテロリストの緊張感とともに映し出され、静かなテオク・オフ。もっとも臨場感があったのは当日の管制センター。ボストンの管制センターでアメリカン11便が応答なしとなって、NY州ローム北東地域空センターのスクランブル対応の様子はドキュメントを観るようである。管制官と軍関係者の一部は実在の人物が演じているらしい。
有名俳優を一切起用しなかったキャスティングが緊迫感を増している。
ただ、エンド・クレジットと乗客の台詞がこの製作意図の全てなら、減点対象とならざるを得ない。