晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『秋日和』 80点

2009-10-22 15:49:57 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

秋日和

1960年/日本

得意なジャンルでコミカルなスパイスを振りまいた晩年の小津

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

晩年の小津安二郎が「彼岸花」に続いて里見の原作を映画化。「晩春」(’49)以来、<結婚を期に親子の複雑な心情をキメ細やかに描く>という得意のジャンルを時代{’60(昭和35年)}を切り取ってじっくり見せてくれた。カラー化しても落ち着いた独特のトーンとローアングル・固定カメラは健在である。
未亡人となっても慎ましく微笑みを絶やさない母と母親思いの優しい娘の親子。母は服飾学院で教師をしながら丸の内の商事会社で働く娘とたまに外食するのが楽しみ。平穏な母子の生活に何かと世話を焼くのが亡夫の学友3人(佐分利信・仲村伸郎・北竜二)で立派な社会人ながら学生気分丸出し。とぼけたやりとりでコミカルなスパイスを振りまいている。加えてこれが本格デビュー作となる司葉子の親友役の岡田茉莉子が、3人に絡んでやり込めてゆく存在感あふれる演技を見せ、さすが名優岡田時彦の娘だと唸らせる。のちの大女優・岩下志麻が受付嬢で出ていて2年後小津の遺作・「秋刀魚の味」のヒロインに抜擢されたのも大船松竹の晩年を象徴している。
60年といえば安保闘争の最中で、日本が大きくかわろうとする激動期。松竹も大島渚・篠田正浩のヌーベルバーグが胎動し始めた頃でもある。
のちの高度成長期を支えた若者が適齢期を迎えたこの時代、親子とは?家族とは?を追い続けた小津安二郎にとって、ドライとウェットという流行語を交えながら「変らぬ日本人の心情」をしっかり見据えた作品であることは間違いない。