晴れ、ときどき映画三昧

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『赤ひげ』 85点

2008-11-04 12:12:41 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

赤ひげ

1965年/日本

黒澤ヒューマニズムの集大成作品

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

山本周五郎「赤ひげ診療譚」の原作を黒澤明が映画化。三船敏郎とのコンビ、モノクロ作品としても最後となった。原作にある庶民の貧困からくる切なさ、必死に生きるその姿を映しながら黒澤ヒューマニズムを存分に発揮した3時間5分の長編。
最新の阿蘭陀医学を学び、御番医になる筈だった若き医師・保本登(加山雄三)は小石川養生所に呼ばれ通称赤ひげ・新出去定(三船敏郎)に患者を診るように言われる。そこは貧困から医療費が払えない庶民をタダで診療する幕府直轄の診療所だった。一刻も早く退出したい保本は診療もせず酒浸りとなるが、別棟にいる娘(香川京子)の病状を巡り赤ひげの医師としての眼力を見直す。
蒔絵師の六助(藤原鎌足)の臨終を看取り、職人佐八(山崎努)の看病をするうち徐々に「病気の原因が貧困と無知からくる」という赤ひげの言葉に吸引されて行く。最初の患者が岡場所から引き取った少女おとよ(二木てるみ)だった。
「医は仁術」を実践する理想の老医師と若いエリート医師の交流を通して、現代の医療制度への警鐘とも受け取れる内容。<人間の死と向き合い尊厳を改めて問う>黒澤作品共通のテーマを、戦後日本映画のピーク時に黒澤組が渾身の力を籠めて完成させた。その後5年のブランクがあったのも頷ける程、隅々まで行き届いた作りである。
出演陣も若大将シリーズで大スターとなった加山雄三と内藤洋子のコンビが新鮮だが、それ以外はお馴染みの芸達者達。何れも黒澤明に選ばれた人達だ。
大女優・杉村春子、田中絹代を始め団令子、香川京子、桑野みゆき、根岸明美など枚挙に暇が無い。男優も志村喬、笠智衆、東野英治郎、三井弘次、左卜全、渡辺篤が夫々見せ場を作ってくれる。秀逸だったのは二木てるみと頭師佳孝の2人の子役。
ただ「赤ひげ」が強きを挫き、弱きを助け、力もあり、欲が無い理想の人間過ぎて、現実味に欠けてしまう。ヴェネチュア国際映画祭の男優賞作品なのだが...。