・「ひとりひとりが強くなれ。自分たちの土地を守るんだ!」
20世紀初頭、メキシコ革命で英雄パンチョ・ビリャとともに活躍した農民出身の革命家エミリアーノ・サパタの言葉。
ジョン・スタインベックの脚本をエリア・カザンが監督、マーロン・ブランド主演と聞いただけで純文学の香りが漂う名作に違いないと想像、期待が膨らむ。
19世紀後半からディアス長期政権は農民や都市労働者に圧制を強いた独裁政治が続いていた。サパタは土地と自由を求めて亡命政治家・マデロと呼応してディアスを追放する。
その後政権はマデロから旧政権ウェルタに移るが、再び諸州が立ち上がりパンチョ・ビリャ将軍がウェルタを倒し、政権闘争は目まぐるしく動いて行く。
マデロと土地改革で意見が合わず、一旦南部で農民運動に戻っていたパサダは、兄ユーフェミオ(アンソニー・クイン)やフェルナンド、パブロなど同志とともに農地改革に同意したビリャ将軍と手を組み、表舞台へ再登場する。
歴史はときに必要とされる時期だけ彗星のように現れ、役割を終えるとあっけなく消えて行く英雄が登場する。本作は、人間的には魅力的だが暴力しか手段を持たない無教養で粗暴な男の悲劇性を見事に描いて見せてくれる。
南部の農民出のパサタは北部の軍人ビリャの陰に隠れ、革命史のなかでも際立った存在ではなかったが、本作でその悲劇性や農民たちに慕われた人物として一躍浮かび上がらせることとなった。
パサタを演じたM・ブラントは一介の農民から大統領へ就任した民衆の心に伝説を残した風雲児を全身で表現。前年「欲望という名の電車」、「波止場」(54)とともにE・カザン監督の期待に応えた。
兄ユーフェミオに扮したA・クインが、貧しい境遇から栄光を勝ち取った人間の権力への執着ぶりを外連味なく演じオスカー獲得(助演男優賞受賞)を果たしている。
豪商の娘で妻になるジーン・ピーターズの野生美が際立っている。のちにハワード・ヒューズと結婚し引退してしまい、銀幕に戻らなかったのが勿体ない。
赤狩り騒動に巻き込まれ揺れ動く心情の内で本作を監督したE・カザンにとって、圧巻のラストシーンが印象的な<同志に裏切られた悲劇の英雄を面影に留める作品>となった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます