晴れ、ときどき映画三昧

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「リスボンに誘われて」(12・独/スイス/ポルトガル) 80点

2014-09-23 12:34:50 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 現在と過去を交錯させた、ミステリータッチのラブストーリー。

                    

 哲学者で作家でもあるパスカル・メルシエのベストセラー「リスボンへの夜行列車」を、デンマークの名匠ビレ・アウグスト監督が映画化。

 スイス・ベルンの高校教師ライムント(ジェレミー・アイアンズ)は、平凡で無味感想な独り暮らしの日々を受け止めている。

 ある雨の朝若い女性の自殺を救ったのがキッカケで、リスボン行きの列車に乗るハメに。車中彼女が残した本に感銘し、著者アマデウ・デ・プラトの家を訪ねると彼は若くして亡くなっていた。

 生前の彼を知る人々と触れ合って行くうちに、医師として秘密警察の幹部を救ったことから反政府運動に加わったアマデウの短く・濃密な人生が浮かび上がってくる。

 哲学的小説の映画化と知り腰が引けたが、久々のJ・アイアンズとお気に入りのメラニー・ロランが出演しているので渋谷まで出掛けた。上映20分前に完売で、止むなく午後の部まで待つことに。2回目も筆者のような老人か、熟年女性グループで満杯だった。

 カンヌ・パルムドールを2度受賞しているB・アウグストの現在と過去を交錯させながら物語を紡いで行く手腕は健在で、70年代ポルトガルのサラザール独裁政権下での民主化運動・いわゆるカーネーション革命で生まれた、<階級を超えた友情と情熱的な恋物語>が鮮やかに蘇ってきた。

 J・アイアンズは「運命の逆転」(90)でのオスカー俳優だが、筆者にとって強烈だったのは「ダメージ」(93)で、息子の恋人・ジュリエット・ビノシュを奪い苦悩する政治家役が印象的。

 雨の降りしきるベルンから陽光輝くリスボンへの旅が、人生に大きな転機をもたらすことになる<自称退屈な男>を、渋くて品良く演じて観客を魅了している。
 
 新旧共演者がとても豪華だ。アマデウを演じたのは'82生まれのホープ、ジャック・ヒューストン。巨匠ジョン・ヒューストンの孫で、これからの飛躍が期待できそう。

 恋人の裏切りと親友への嫉妬に悩むジョルジュ役はアウグスト・ディールで、晩年をブルーノ・ガンツが存在感を魅せている。

 記憶力が抜群に良い組織のキイパーソン・エステファニアにメラニー・ロランが扮している。髪の色は違っていてもその美しさは変わらない。晩年のエステファニアがレナ・オリンなのも豪華だが、偶然が重なって主人公が会いに行くシーンは出来過ぎの感がする。

 ほかにも眼科医マリアナ役にマルティナ・ゲディック、その伯父でアマデウが救った秘密警察幹部に拷問を受けたジョアンにトム・コートネイ、アマデウの妹で兄を慕うあまりその死を認めたくないアドリアーナにシャーロット・ランプリング、そしてパルトロウ神父役には'22生まれで怪奇映画の大スター、クリストファー・リーが扮しているなど、その豪華さは枚挙に暇がない。

 外壁に落書きが多いのが気になるが、リスボンの石畳と坂道・路面電車、フェリー、ウォーター・フロントのレストラン、アルカンタ展望台の夜景など、ポルトガル観光PR映画としても素敵な役割を果たしている。

 「実際には人生に変化をもたらすのはひそやかに忍び寄る。その瞬間は静かに展開し、まったく新しい光のもとに人生が照らし出される。」

 監督はこんな文学的な文章を、ポルトガル版「旅愁」(50)を想わせるようなエピローグで映像化。ミステリータッチのラブストーリーをセンス良く締めくくっている。
 
 


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