晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「お茶漬の味」(52・日 )80点

2018-11-03 14:32:42 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)


・ すれ違い中年夫婦の機微を描いた小津作品。

育ちの違う夫婦の日常・すれ違いと和解を描いた小津安二郎監督作品。戦前の原案<彼氏南京に行く>を野田高梧とともに練り直し、戦後7年の夫婦に置き換えている。

長野出身で質素な暮らしを好む夫・茂吉(佐分利信)と東京のお嬢様育ちの妻・妙子(木暮美千代)は見合い結婚。

丸の内のエリート・サラリーマンでありながら列車は3等車が気楽でいい、タバコはアサヒ・ご飯に味噌汁を掛け猫まんまを好む夫。
家事は女中任せで友人や姪と遊び歩く奔放な妻。修善寺での温泉旅行を楽しみ、池の鯉を観て夫を思い出し鈍感さんと命名して憂さを晴らす。

こんな正反対の夫婦を小津はローアングルで追いながら、寄りと引きで変化を観せている。

戦後の生活文化史的興味も沸く作品として貴重なものとなっている。
路面電車が走る皇居周りや銀座の風景。筆者には懐かしい、野球場・後楽園球場は屋根がなく鶯嬢が呼び出しをしてくれるし、隣には競輪場もあった時代。木暮の上流夫人らしい着物姿、友人・淡島千景や姪の節子・津島恵子のファッションは昭和20年代の庶民には憧れ的存在だ。

庶民にはパチンコが大流行。駅前には小さなパチンコ屋が必ずあって、軍艦マーチの音楽とちんじゃらの音が鳴り響いている。茂吉は若い部下・岡田(鶴田浩二)に誘われ始めて入った店の店主が戦友の笠智衆。自嘲気味に今の暮らしを話し、戦争は絶対やってはいけないがシンガポールの星空が懐かしいという姿が悲哀を感じさせる。

とんかつとラーメンが大好きな岡田は安くて美味くなくちゃとウンチクを節子に語るシーンは当時の若者の典型だ。

歌舞伎座でのお見合いを嫌がる節子を巡って茂吉が言った言葉がキッカケで口も利かなくなった妙子。憂さ晴らしで神戸へ行っている間に茂吉の短期海外赴任が決まり、見送りもないまま飛行場へ・・・。

お茶漬が夫婦の絆を取り戻すことでめでたしめでたしとなるが、「インティメイトでプリミティブな、遠慮や体裁のいらないもっと楽な気安さがいい。」という台詞が如何にもインテリ小津作品らしい。

<男の価値はミテクレだけではないこと>を表現しようとしたという小津にとって、ちょっぴり消化不良の作品だったかもしれない。




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