晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「希望の灯り」(18・独)80点

2019-11-08 12:04:55 | 2016~(平成28~)

・ままならない人生にも、美しい瞬間がある。


 ドイツのクレメン・マイヤーの短編小説「通路にて」をトーマス・シュトューバー監督が映画化。原作のC・マイヤーが脚本を担当し、主演は「未来を乗り換えた男」の若手フランツ・ロゴフスキ。

 <ベルリンの壁崩壊>のきっかけとなった旧東ドイツの都市・ライプチヒ。その大型スーパー・マーケットを舞台に、ドイツ統一によって取り残された人々の日常を描いたヒューマン・ドラマ。

 飲料在庫管理係として採用されたクリスティアン(F・ロゴフスキ)はとても寡黙で腕と首にはタトゥーをしている。朴訥だが心優しい職場の先輩ブルーノ(ペーター・クルト)に見守られながら日々を送るようになる。
ある日、菓子担当のマリオン(サンドラ・ヒュラー)の謎めいた魅力に惹かれていく・・・。

 長編三作目の監督は81年生まれの30代だが、社会の片隅にいる人々を穏やかに綴った作風はアキ・カリウスマキかジム・ジャージッシュのよう。
 台詞は極端に少なく、ブルーグレーの色調が夜の巨大スーパーとアウトバーンの無機質な風景を彩る。

 どうやら悪の仲間から抜け出し更生しようとしている20代のクリスティアンと、既婚者ながら家に安らぎがない30代のマリオンには職場が安息の場らしく、50代のブルーノはトラック運転手だった頃の郷愁に苛まれながら働いている。

 他の仲間も心の悩みを抱えながら職場で懸命に生きる人々で、決して深入りしないのも彼らの距離感だ。

 職場の花形はフォークリフトで、縦横無尽に空間を<美しく青きドナウ>にのせてリズミカルな動くさまは、まるで生きていて踊るようだ。

 孤独な若者が道を誤らないためには周りの大人の影響が大きく、クリスティアンとブルーノは疑似親子のよう。マリオンも娘のような感覚で見守っていたのかもしれない。

 終盤の悲劇は唐突でもあったが、ブルーノにはクリスティアンの成長とマリオンを見守る役目を彼に託した安堵感があったのかもしれない。

 ささやかながら仕事の役割分担を任され、出逢いや別れを経験しながら暮らす日常にも人生があるという視点が愛おしい。