晴れ、ときどき映画三昧

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「ハドソン川の奇跡」(16・米) 80点

2017-03-25 15:34:08 | 2016~(平成28~)


   ・ 国民的ヒーローを違う視点で捉えた、C・イーストウッド監督作品。

    

 09年1月NY上空で旅客機・USエア1549便が制御不能に陥りハドソン川に不時着水し、乗客乗員155名・全員奇跡の生還劇として機長が一躍ヒーローとして賞賛された。

 この奇跡の生還劇にまつわるサレンバーガーことサリー機長の心情と、NTSB(国家運輸安全委員会)による事故原因調査における経緯を描いたドラマ。原作はチェズレイ・サレンバーガー(機長本人)とジェフリー・ザスロー(ウォール・ストリート・ジャーナルのコラムニスト)共著による手記。

 孤高のヒーローを描くことに長けたクリント・イーストウッドがメガホンを撮り、「アポロ13」「キャプテン・フィリップス」など危機に直面し無事生還する実在の主人公を演じてきたトム・ハンクスによる初コンビ。

 予めドラマの構成が予測できそうな事実に基づくエンタテインメント・ドラマになりそうな本作を、違う視点で捉え静かな感動を呼んだのは、86歳にして衰えを見せないイーストウッド監督の作家性によるものだろう。

 IMAXカメラによる緊急着水シーンやマンハッタン高層ビルへ激突するサリーの幻想シーンなどハラハラ・ドキドキシーンも交えながら、あくまでリアル感にこだわった本物志向が窺える。

 乗客側のドラマは必要最小限に抑え、官僚機構の象徴であるNTSBと機長をはじめとする副機長・客室乗務員、救助隊・警官など現場スタッフを対比することに主眼を置いた脚本(ドッド・コマーニキ)が本作を際立たせている。

 あくまでクールに俯瞰的な描写を交えながら、人間の心情を見事に再現させる映像作りの確かさは健在。長編になりそうなドラマ性豊かなストーリーを極端にそぎ落としていながら、情緒溢れる物語に完結した手腕は安定感がある。
 
 主演したT・ハンクスは、冷静かつ的確な判断ができる熟練プロフェッショナルでありながら、左エンジンは本当に作動していたのではないか?オペレーターの指示通り空港へ引き返せたのではないか?という葛藤に苛まれる等身大の人物像を好演。

 共演したジェフ・スカルズ副機長(アーロン・エッカード)とサリーの妻ローリー(ローラ・リニー)が、公私に渉るジェフの人物像を浮き彫りにしてこのドラマに厚みを増している。

 検証の最終段階での公聴会は、シュミレーションでの空白の35秒が決め手となったが、コンピュータと人間の差はこれからどのようにしたら埋まるのだろうか?