・ 善き時代のアメリカに潜む人種差別をテーマにした社会派ホーム・ドラマ。
アメリカ17州に異人種間結婚禁止が合法だった頃。白人女性とアフリカ系アメリカ人男性の結婚を巡るヒューマン・ストーリー。
サンフランシスコの新聞社社長の娘ジョアンナ(キャサリン・ホートン)がハワイから帰国。連れの男性はジョン(シドニー・ポワチエ)で冷静沈着な若手医師。二人は知り合って2週間で結婚を決意、ジョアンナの両親に報告するためだった。
娘の報告に母クリスティーナは、幸せを願いながら戸惑いを隠せない。帰宅した夫のマットに「大変なことが起きた」という。
リベラリストを自負するマットは黒人への偏見や人種差別はいけないことだと娘にも教えてきた。だがイザ自分の娘が黒人男性と結婚するとなると、この先の様々な困難を乗り越えねばならないことは明白で、両手を挙げて賛成とは言えない。
ゴルフ仲間の親友ライアン司教から、似非リベラリストといわれようが簡単に認められない。
なにしろ20分で恋に落ちたという天心爛漫なジョアンナことジョーイが一方的に燃え上がっているだけかもしれない。
マットを演じたスペンサー・トレイシーの遺作となったが、このとき67歳。長年のパートナーで、9作共演作があるキャサリン・ヘプバーンが妻クリスティーナを演じているのでぴったり息が合う。
米国が抱える人種問題を家族に置き換え、良識を貫く勇気を問う設定はウィリアム・ローズのオリジナル脚本。今観るとジョンが白人が望む理想像であるなど予定調和が目に付く箇所も多いが、この時代にこういう作品が制作されたのは感動もの。
K・ヘプバーンは、夫と娘を支える良妻賢母でありながら、自分の考えをしっかり持った女性像を出しゃばることなく魅せ、彼女ならではの感情を秘めた眼の演技は流石。
S・トレイシーは病症の身に鞭打って出演、終盤のアリアはまるでK・ヘプバーンへのラブコールだった。
折しも今公開中の映画「ラビング 愛という名前のふたり」は実話を基にした異人種間結婚がテーマのラブ・ストーリーで、連邦最高裁で合法になったのが本作公開と同じ67年だったのも何らかの影響があったのかもしれない。