晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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『好人好日』 80点

2012-11-11 14:15:28 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

好人好日

1961年/日本

松竹三大巨匠のひとり、渋谷実の人情喜劇

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

実在の数学者・岡潔をモデルにした中野実の原作を松竹三大巨匠のひとり「自由学校」「本日休診」の渋谷実監督で映画化。脚本は松山善三との共同脚色で、豪華キャストによる松竹大船調の伝統であるほろっとさせる人情喜劇で小品ながら佳作である。
昭和30年代中頃の奈良を舞台に、世事に疎い大学教授で数学者の父と、しっかり者の母が娘の縁談で繰り広げられる一家の日常風景を描いている。娘の相手は職場の同僚で二百年続く老舗の墨家の跡取り息子で家柄が違う。そのことで起こる両家の出来事がそのまま喜劇のネタとなっている。とくに数学以外に世俗的な欲を持たない父が清貧に甘んじながら、文化勲章を受章すると周りの評価が一変するさまが面白い。
冒頭、これはフィクションであるとクレジットがあるとおり、主人公の変人ぶりは岡潔の逸話ではないようだが、本当ではないかと勘違いするイメージがあるのは、なんとなく岡に似た風貌だからか?無精ひげで雨靴で大学へ通い、犬に羊羹を食べさせたり、挙句の果て泥棒に文化勲章を獲られても平然としている。反面30年来苦労を掛けた妻に感謝の言葉で酌をするなど、自論の<数学は情緒の表現である>という思いやりを実践して見せる。泥棒が勲章を返しに来ると、汽車賃とお礼をあげるよう妻に後を追わせるのはやり過ぎだが・・・。
この下戸でコーヒー好きな天才数学者を演じたのは笠智衆。小津作品で見せる無口な良識ある父とは違って、かなり雄弁で<TVばかり見る子供は馬鹿ばかり>と断言したり、陰に隠れてボクシングの練習をしたりする子供じみたところもある。不器用そうな笠智衆が演じるだけでほのぼのとする。娘は当時20歳の岩下志麻。血の繋がっていない両親に育てられながら清楚で明るい現代娘を好演。父と娘の間で世話女房と娘の善き理解者である母の両面をさり気なく魅せる節子役は淡島千景。相変わらず達者な演技で人情劇には欠かせない女優だ。
ほかにも老舗の息子の姉に音羽信子、お徳婆様に北林谷栄、節子の友人女将に高峰三枝子など適材適所の贅沢さ。おまけに泥棒に三木のり平、クレーマーに上田吉二郎、右翼風の男に菅井一郎などバライティ豊かな脇役を据えて万全の配置は流石巨匠のキャスティングである。
東大寺の大仏・奈良公園・二月堂など古都・奈良の名所が小津の後継者と言われたアンダーカットで随所に見られるのも楽しい。